by りっぱなしまうま
【’95/5/5 日本全国縦断 大仁田厚 メモリアル引退ツアー ラストファイト〜最終章〜 川崎球場】
大仁田厚 引退試合=世界ブラスナックル選手権試合
時間無制限1本勝負 ノーロープ有刺鉄線電流地雷爆破時限爆弾デスマッチ
チャンピオン ○大仁田厚(18分11秒 エビ固め)チャレンジャー HAYABUSA
※大仁田、初防衛に成功するも、引退のため王座返上
試合開始午後3時 観衆58250人(超満員)
’95年5月5日。FMWにとって一番、長い日となった1日。
例年なら少しくらい汗ばむ陽気であってもいいはずのこの季節に、何故か川崎球場はおそるべき寒波に見舞われた。筆者はこの際だからと調子にのって大仁田”男樹”ジャンバーまで買ってしまったが、本当にそこまでしたくなるほどの寒さだった。翌日は暑いくらいだったのに… である。
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しかし、長年FMWのビッグ マッチを見続けてきた筆者でさえ、試合が面白くなってきたのは工藤めぐみのタイトル マッチあたりからで、やはり先行き暗いなぁ という印象はぬぐえなかったのだ。
工藤が影武者を使って猛毒隊陣営を撹乱するところから試合はスタートしたが、工藤と中村の戦力を冷静に比較すれば、たかが中村を倒すためにそこまでやらなきゃならない必然性などまったくないことは、誰にでも分かる。そして、何故かセコンドが大勢いるにもかかわらず、乱入がやたら簡単に繰り返されるお粗末な試合展開。
なんとなく極悪レフェリー阿部四郎がさばくクラッシュ ギャルズとダンプ松本・ブル中野とのヤラセ抗争のようで胸クソ悪い。FMW内部で工藤・豊田に迫る選手を育てたいという気持ちは分かるが、こんな消化不良の試合展開でいま時、誰が納得するというのだろう。
前半はバッドナースに攻められるだけ攻めさせたが、決定打は何一つなく、10分過ぎには攻め疲れが目立って明らかにペースはガタ落ち。結局、工藤がチェーンを巻いた裏拳からタイガー ドライヴァー一発でケリ。ヒールの極悪戦法にベビーの工藤がじっと耐え、起死回生の大逆転 というシナリオなのだろうが、中村では役不足もいいところで、前日、まったく同様の展開の大仁田vs.ポーゴという素晴らしいお手本があったにもかかわらず、デキは月とスッポン。工藤さん自身、いつまでも現役を続けられるワケじゃないのに、こんなアホなことばっかりやってるヒマはないはず。ヘタしたらやる気なくしてFMW退団しちゃうぜ。フロントおよびFMW女子部の奮起を期待する。
田中正人・新山勝利、FMW第2世代コンビのホーレス・ハゲてるとこだけおじさんそっくり・ボーダー&ザ・グラジエーターの超大型外人コンビへのチャレンジは、双方の力と力が正面からぶつかる期待通りの素晴らしい力戦となった。球場全体が戦場と化すストリート ファイト タッグ マッチは撮影用のヤグラのてっぺんまで登っての落としあいにまで発展し、スリル満点。前号で登場の筆者の友人、富山の川勝夫妻はオフ ザ リングの大仁田とは顔なじみで付き人だった田中のこともよく知ってたから応援にもいっそう熱がこもる。”たぁなぁかぁ〜”の絶叫、きっとビデオに入ってるで、智子さん。
グラジエーターが田中をコーナー ポスト最上段からリング中央に置かれた本部席の机へ叩きつけたスーパー アッサム ボムもスサまじかったがしかし、本当の見せ場は、その前にグラデュエーターがアッサム ボムの体勢から足を踏み外して田中もろともマットに落ちたシーンであった。ここでの田中の落ち方はハンパじゃなく、首が変な方向にねじれてしまっていて、一般の人なら間違いなく病院送りだったと思う。田中はこの状態からさらに机がまっぷたつになるアッサム ボムをもう一回受けてなお、フォールを返したのだ! 試合はこの田中の頑張りを新山のジャーマンがつないでの辛勝だったが、大仁田アフターの一つの風景を5万人の大観衆に見せつけた意義は大きかったと思う。
セミファイナルは世界ブラスナックル タッグ選手権試合。
しかし、この試合の持つ意味は、前日の大仁田戦で燃え尽きたポーゴのW★ING同盟決別の儀式でしかない。ポーゴの火炎攻撃を浴びた金村クンには気の毒だったけれど、結果はやる前から分かっていた。
ポーゴは大仁田の後継者を自らの肉体を賭けて育て、引退するのだ。だからこそポーゴがチームを組む相手は外人しかないのである。
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期待と興奮と惜別の瞬間を待って5万人の観客がウェーヴを繰り返し、チ○ポ丸出し男が奇妙な腰フリ ダンスで観客を扇動する。川崎球場は静かにしかし確実に鳴動していた。駆け抜けた6年間の集大成の時を迎えるべく大仁田厚は、今、その最後のリングに向かおうとしていた。
運命の時刻は午後7時41分。
”思っていることが出来る試合じゃないですから…” 昨年のスーパー グレードメヒコ ツアー’94でお世話になったゴクーさん〜ハヤブサとはメヒコで意気投合しポン友の仲であります。新日の金本クンもです〜が聞いてきてくれたハヤブサ、試合前のコメントである。”予想以上に落ちついているなぁ。ハヤブサも成長したものだ”、これから始まる名勝負の予感に筆者はゾクゾクした。
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筆者は川崎球場に着くほんの直前まで、きっと泣いてしまうだろうなぁ と思っていた。泣くために川崎へ行くのだ とも思っていた。しかし、FMWの過去と未来が正面からぶつかるこの試合に、感傷などまったく無用の長物であることを、ほかでもない大仁田自身が、天に突き上げたその指先で示したのであった。そしてそれは長い間、大仁田の戦いを追ってきた筆者でさえ初めて見るヒールでもベビーでもない大仁田+ニタ=キラー大仁田、出現の瞬間でもあった。
対するハヤブサ。筆者にはこの目の前のハヤブサというマスクマンが、昨年メヒコで出会い、日本料理店カブキでメシを奢ったあの江崎英治という青年と同一人物とはどうしても思えなかった。筆者と並んで撮った写真の中の彼は、背格好も筆者とたいして変わらなかったし、紳士的な口調でおだやかに話す好青年だったのだ。あの時に比べれば体もずいぶんビルド アップされ大きく逞しくなった。彼自身”引退試合の相手をしたい”とも言っていたけれど、それが現実のモノになるとは夢にも思っていなかっただろう。それがこの大舞台を前にしてこの落ちつき様はどうだ。たかがキャリア5年程度の選手とはとても思えない大物ぶりではないか。昨年、大阪城ホールでの凱旋試合では、周囲のあまりに大きな期待に押し潰されてしまったハヤブサであったが、あのひ弱なハヤブサの雛はもうどこにもいない。
立ち上がりのストロングな攻防… バック ドロップ、ブレーン バスター、D.D.O.、サソリ固め、四の字固めといった大ワザの数々。電流爆破という四面地獄の中で、使用可能なワザを効果的かつ的確に選択し、ひとつひとつ味わうように決めていく大仁田。それはこの1年にわたるシリーズの間、ほとんど見せることのなかった大仁田のかつての姿である。また同時にそれは大仁田が確かにG.馬場を師匠に持ち、全日本プロレスで青春時代を過ごしたという証〜大仁田・正道サイド、引退試合の風景でもあった。
ロープに飛ば(べ)ないプロレス。これこそFMW邪道プロレスの対極に位置すると思われてきたUの遺伝子であった。第二次UWFへの意地だけで旗揚げした大仁田FMWの邪道中の邪道である戦いが、これ程までにUの遺伝子と酷似していたとは、なんたる皮肉であろう。
リング上で一発目の火花が上がった。ハヤブサにヘッド ロックでとらえられたままの大仁田が金網に突っ込んだのだ。これは何度も地獄の淵を覗いてきたオーソリティの強みだ。ストロングな攻防から場面は一気にデスマッチへと急展開する。ついに大仁田・邪道サイド、引退試合の幕が上がったのだ! この一発でハヤブサの動きはガクンと落ちた。膠着状態にしびれを切らしたファンへの大仁田ならではのサーヴィスの意味合いさえ含んだ最初の爆発は、同時にハヤブサにとっての地獄巡りのスタートであった。
ここにキラー大仁田が一気に開眼する。序盤戦の段階で相手を電流爆破にふった大仁田の姿は、これまでの戦いの中では見られなかったものである。電流爆破の形式の中で大仁田は必ず先に被爆していたのであり、大仁田はキラー大仁田と化してヒール的戦いに徹することで、ハヤブサを未来のFMWのエース、つまりベビーの立場に追いやったのだ。それは”ハヤブサをターザン後藤と思っていく”という言葉通りの叩き潰しのプロレスである。大仁田がキラー大仁田と化しヒールに徹したからこそ、これほどの名勝負が実現したのであった。
二人同時に1回
ハヤブサ 2回
大仁田 1回
熱烈な大仁田ファンの読者なら従来の電流爆破に比べ、大仁田の被爆回数が極端に少ないことに気づかれることと思う。
終わってみれば、ベビーとしての大仁田はハヤブサの攻撃を受けきっての横綱相撲であった。サンダー ファイアーを切り返したウラカン ラナ、掟破りの逆サンダー ファイアー、金網の上からのスーパー ダイヴ… ハヤブサはおシャカ様の掌の上で踊らされた猿悟空さながら、自らの持てるワザのすべてをくり出した。
◆
ハヤブサが大仁田に四の字固めをかけた。ヒザに爆弾を抱えている大仁田には効果的な攻めである。この時点で時限爆弾爆破まで1分。そのままの状態で張り手の応酬。”なるほど、リング中央で四の字なら時限爆弾の威力は防げるかもしれない。四の字のままで被爆して、試合続行だ”と筆者は思った。しかし、四の字は外れ大仁田のサンダー ファイアー パワー ボム、D.D.O. へと続く。
ハヤブサ、クリア! ハヤブサが大仁田に突進、かわす大仁田! そしてハヤブサ、3度目の有刺鉄線金網電流爆破! その直後に地雷に被爆、さらに時限爆弾が爆発! ハヤブサのふっとぶ足だけが見えた。
荒井リングアナのかん高い声が響きわたる。”選手を確認してください。選手を確認してください。試合は続行されます!”
このかつてない展開に筆者はもちろん、球場全体が大きく揺れた。時間無制限1本勝負とはいえ、時限爆弾が爆発してしまえばすべては終わり。実質的には15分1本勝負だったし、これまでの試合は実際、15分以内に決着がついていたのだ。しかし、試合は続行されるという。
かつて大仁田を苦しめてきたライヴァル達の姿が大仁田にオーヴァー ラップする。そしてハヤブサはかつての大仁田だ。30以上の団体がひしめくマット界でFMWをエースとして引っ張っていかなければならないハヤブサ。師匠・大仁田が与えるハヤブサにとって最初で最後のそして最大の試練は、今まさに始まろうとしていた。
気がつくと筆者はハヤブサを応援していた。そして筆者の声は場内の大ハヤブサ コールに吸い込まれていった。今こそ大仁田を楽にさせてやれ。ハヤブサ、お前が邪道を葬って、大仁田を成仏させてやるのだ!
合計5発のサンダー ファイアー パワーボムを浴びたハヤブサは豪沈、しかしその目は死んではいなかった。担架の上から、しっかとFMWの明日を見つめていた。大仁田は最後の遺言をハヤブサに残し、川崎球場を去った。
◆
邪道最後。引退試合を勝利で飾った大仁田は6年間、2度目の現役生活に終止符を打ち、そして最後のマイク アピールを行った。人間の精神力とは、かくも凄まじいものなのか まざまざと見せつけられた感さえある。一緒に被爆した伊藤レフェリーとハヤブサの二人が担架の上で身動きできず横たわっていた頃、大仁田はマイクで5万人の大観衆に最後の別れを告げていたのだ。大仁田はさらにそのままの状態で記者会見を行ってから、病院へ向かった。まことに驚異的としか言いようがない。
華やかなセレモニーもなく、10カウントは主人公、不在のまま… 泥と汗と煙の中で邪道の最期らしく、見事に散っていった大仁田桜。
ありがとう。僕たちは貴方の生きざまを決して、忘れないでしょう。
全治一生
〜大仁田厚駆け抜けた6年間の代償〜
第七頚椎朿突起亀裂骨折
左上腕骨大結節剥離骨折および腱板損傷
陳旧性左上腕骨遠位端骨折
左膝蓋骨粉砕骨折(手術後、変型)
左変形性膝関節症
胸椎側弯
右太腿部外側皮神経障害
右変形性膝関節症
左腓骨外果剥離骨折
1049針のキズ
了