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北朝鮮での幸福な日々

by りっぱなしまうま

 

 猪木さんのスポーツ平和党と新日本プロレスが強力タッグを組み闘魂外交の一環として北朝鮮で試合をする という話を聴いた時、何をおいても見てみたいと思った。それは番外編とは言えファイナル カウント ダウン中、最高の試合になる可能性が高いということもあったけれど、それ以上に北朝鮮という最も近くて最も遠い国をこの目で見、感じてみたいという好奇心旺盛な性格によるものだった。

 今回の北朝鮮大会は猪木さんサイドの政治的な意図、北朝鮮サイドの国際的対外的意図等々、いろんな裏事情が見え隠れする大会だったワケで、それについてしたり顔の皮肉な解説をするヤカラもかなり目立ったが、そんなことよりもまず北朝鮮という場所で前例のないスーパー イヴェントが開催されたこと… それ自体の価値を真摯に評価するべきではないだろうか? 実際、外交的になかなか門戸が開かれなかった北朝鮮にプロレス ファンだったおかげで行けたのだから、内外のプロレス ファンはそのことにもっともっと胸を張るべきだろう。

 さて、今回のイヴェントは各方面かなりの数のマスコミが取り上げており、その概要については多くの方がご存知であろうと思われるので、細かい点はそちらに譲るとして、筆者のこのコーナーは辛口観戦リポートである。


<平和のための平壌国際スポーツ・文化祭典 公式記録 開会式>

4月28日 北朝鮮 平壌メーデー スタジアム 

試合開始 午後8時 観衆19万人(超満員札止め)=主催者発表

▽20分1本勝負 ○永田(4'28" グウンド フェースロック)石沢

▽全日本女子プロレス タッグマッチ 20分1本勝負 

 ○中野・北斗(8'34" 体固め)豊田●吉田

▽20分1本勝負 

 ○馳(10'10" 北斗原爆固め)ペガサス

▽タッグマッチ 20分1本勝負 

 ○蝶野・(8'6" エビ固め)●サムライ・安田

▽20分1本勝負 

 ○スコーピオ(2'37" レフェリー ストップ)大谷

▽20分1本勝負 

 ○佐々木(8'34" 方エビ固め)M.斎藤

▽20分1本勝負 

 橋本(時間切れ引き分け)ノートン


 まずは会場になったメーデー スタジアムなんだけど、これがとにかくデカイんだわ。大同江(テドンガン)という平壌の中心を流れる河のど真ん中にあって、泊まっていた大同江ホテルから遠目に見てた時は、大したことないって思ってたんだけど、実際近くまで行ってみるとこれがとんでもないデカさ。

 しかもこのデカイ、スタジアムが人・人・人で埋まって観客は空前絶後の19万人。もちろん共産主義国でのイヴェントなんで、スタンドにいる観客ってのは実は半ば仕事みたいな感じで来ているわけ。だから有料入場者数という点では従来の記録である’87年3月のレッスル マニア 3の9万人がやっぱり最高でしょう。それにプロレスは初体験のヒトが多かったみたいだし。レスポンスに独特の間があって、レスラー サイドでもかなりの戸惑いというか迷いがあったみたい。何となく手探りっ て感じで試合は進む。

 しかし腐っても19万人。その破壊力たるやすさまじい。例えば東京ドームとか大阪城ホールとかの超大型ホールなんかで似たような体験はできるにしても、レスラーの動きと音がシンクロしてないとか、観客のレスポンスが一呼吸遅れるとか… そういう部分がとにかくケタ外れなのだ。何せこのスタジアムの中だけでドップラー効果が起こるというか、ズレた歓声同士さえもがまた共鳴しあって、まるで山びこのような地鳴りのような状態になるのだ。会場の空気それ自体が強烈に振動するというような体験はやっぱり実際に味わってみるに限るし、またこんな会場で試合がやれるというのはレスラー冥利につきよう。猪木が引退をにおわす発言をした気持ちもよく分かる。


 試合は全て20分一本勝負という特殊なもので、何かちょっと拍子抜けの観もある。プロレスの試合って馬場さんとこのけちゃうと、たいてい結果としては20分を越えるものって少ないけど、最初から時間無制限でやるのと20分でいい と思ってやるのとでは、心構えが全然違うしな。この問題が端的に現れたのが橋本真也vs.S.ノートンだった。

 お互い“こんなところでフォールされちゃかなわん” といった実に消極的な攻めが目立ち、軽く流してるって感じで、試合開始直後から時間切れ引き分けが見え見えだった。プロレスが連続ドラマであることの弊害である。

 ロックなんかだと、野外の大きな会場でのライヴでは細かい音符は出来るだけさけ、アレンジを変えて骨太の演奏をすることが多い。

 プロレスにもそういったギアチェンジって当然、必要だろうに、多くの試合は何やってんのか分かるハズないグランドのもみっこからスタートするいつも通りの展開。まるで新日の岸和田大会(大阪湾岸地区、臨海スポーツ センターよりさらに南下 要するに地方興行の消化試合様だったってことさ)みたいで、はっきり言ってこの初日はショッパかった。

 まぁ、異様に静かなわりに技を失敗するとドッと沸いたりする観客の側にも問題はあるけれど、そんなことは最初っから分かっているわけで、全体として緊張感のない試合が多かったのは問題だろう。結局、朝鮮の放送局が制作した初日のVTRは買わなかったもの。

 そうした中で大谷普二郎の負った鼻骨骨折の重傷は、プロレスは一歩まちがうと大変なことになるという怖さをかいま見せ、ある意味で非常に重要な一戦だったと思う。ブル中野・北斗晶vs.豊田真奈美・吉田真理子の全女のタッグマッチは、女の人があんなに激しく闘う! という純粋な驚きが、観客のレスポンスに反映されただけのことであって、いろんなリポートで言われている程にいい試合だとは、筆者は思わなかったな。闘志が空回りしてカミ合ってない印象が強く、それぞれの得意技が出る前に終わってしまった見所もほとんどない内容だった。試合時間もたいして長くなかったし…

 この初日の手応えのなさは、参加レスラーにかなりのプレッシャーになったようだ。結局、このプレッシャーの取り持つ縁で、佐々木健介・北斗晶の大型カップルが誕生したのだから、人生、何がきっかけでどうなるか本と分かんないもんじゃ!


<平和のための平壌国際スポーツ・文化祭典 公式記録 閉会式>

4月29日 北朝鮮 平壌メーデー スタジアム 

試合開始 午後7時 観衆19万人(超満員札止め)=主催者発表

▽20分1本勝負 ○H.斎藤(5'29" 片エビ固め)永田

▽全日本女子プロレス 20分1本勝負 

 北斗(8'4" ジャパニーズ レッグ ロール クラッチ ホールド )中野

▽20分1本勝負 ○キャット(4'58" ゴーリー スペシャル)サムライ

▽20分1本勝負 ○ペガサス(6'2" 片エビ固め)スコーピオ

▽タッグマッチ 20分1本勝負

 ○ノートン・蝶野(8'40" 片エビ固め)●野上・飯塚

▽20分1本勝負 ○ホーク(2'21" 片エビ固め)安田

▽タッグマッチ 20分1本勝負

 ○スコット・リック(11'51" 片エビ固め)●馳・佐々木

▽20分1本勝負

 猪木(14'54" 体固め)フレアー


 初日は選手の入場をノーテンキな朝鮮歌謡で行ったので、雰囲気がアット ホームになっちゃって、それも集中力を欠く原因になっんだろうなぁ。この二日目は、オリジナルの入場テーマが使われることになり、田中ケロ氏がそれを発表しただけでツアー日本人客応援席はドッと盛り上がる。何てったって今日は、猪木の試合があるのだ。猪木がアリランにのって入場したんじゃ、洒落になんないもんな。

 まずは、この北朝鮮決戦だったからこそ実現の全日本女子カリズマ対決 頂上決戦 北斗晶vs.ブル中野。この試合、北斗が前夜、眠れない一夜を過ごしただけあって非常にテンションの高いものになったが、名勝負を成立させるためには名観客が必要であることをも証明してしまった。この試合が東京ドームで行なわれていたら、おそらく年間最高試合の可能性もあっただろうに、結果的にはそうはならなかった。試合はお互いの強弱関係にも序列関係にも何ら影響のないただその場限りの勝ち負けを便宜上決めるための技、ジャパニーズ レッグロール クラッチホールド、その変形フブキ ラナで決まってしまったのであった。フッフーン…

 ワイルド・ペガサスとフライング・スコーピオの試合は前日の試合でスコーピオのスピン キックが大谷の鼻を折ったアクシデントがあっただけに、ペガサスの制裁マッチになるかな とも思ったのだが、ごく普通の試合だった。

 考えてみればスタイナー ブラザースと馳・健コンビのからみもこれが最後になったんじゃないか? 馳は国会議員になってしまったワケで、プロレス界引退はほぼ間違いないのだから。筆者の’91年のベスト バウトがこの両者によるIWGPタッグ選手権であったのだ。試合自体のグレードよりも合体プレーの妙、ことに久々に復活の馳・健コンビのチーム プレーをじっくり楽しめたという点で及第点の試合でしたね。

 そして、今回の北朝鮮決戦のモチロンの大トリはA.猪木vs.R.フレアーの日米両プロレスリング マスター同士の宿命の対決。先の名古屋決戦でのファイナル カウントダウン第4戦で藤原とのジャパニーズ プロレスリング マスター対決を制した猪木のテンションは最高に上がっていたと言えよう。そして宿命とは、馬場の政治的手腕によって長らく挑戦不可能だったNWA、それを象徴する存在であったフレアーとこの局面で戦うことになったことである。

 筆者はアメリカン プロレスはもぅ嫌悪するくらいに大大大キライなのだが、ここではフレアーのアメリカン プロレスのウルトラ テクニックにすっかり魅了されてしまった。大キライだったアメリカン プロレスにもちゃんと使い道があったやんか! と思わずヒザの一つも打ちたくなる嬉しい発見だった。実際、フレアーは実によく猪木の技を受けてくれたと思う。

 筆者は写真資料でしか見たことがないのだが、街頭テレビの力道山vs.シャープ兄弟の対決に熱狂する人々の波・波・波…(後ろの方の人見えてんのかいな?)とこのメーデー スタジアムの小さな小さなリングを見つめる38万個の瞳をオーヴァ ラップさせていた。そうだ、今このメーデー スタジアムは戦後間もなく力道山が誰も知らなかったプロレスを日本に輸入し、スタートさせた時と同じ状態なんだ。原始プロレス状態なんだ。

 力道山プロレス=単純明快な善悪2元対決、シンプルだが力感あふれる大技の連発… つまりアメリカン プロレスこそ、北朝鮮決戦を解明するマスター キーだった。祖国の北朝鮮の英雄・力道山をその弟子・猪木に重ね合わせて、声援を贈る北朝鮮の人々と久々の猪木の素晴らしいフィニッシュ コースにおもわず声を荒げる日本人応援団席! 思想・信条を越えて一つの試合に熱狂する19万人の人々にとって、プロレスとは皮肉にも平和の象徴だったのかもしれない。

 筆者にとって、このような最高の舞台で、しかもリング サイド4列目で、猪木のプロレスが見られたことは、至上の喜びでありました。しかも余談ながら、試合後、リング サイドに駆け寄り、猪木に握手もしてもらえました。ありとみが言うには、“久々にMomoちゃんのマジな応援聞いたでー” とのことで本当に久しぶりに興奮していたのでしょう。後で北朝鮮サイドのツアー コンダクターの金さんに感想を聞いてみたら、“よく分からなかったけれど、やっぱり猪木だけはちょっと、他の選手と違うということは分かりましたねぇ” とのことで、図らずも猪木のスーパー スター性を証明する結果となったのでした。 

 

奥さん ちょっといい話!〜北朝鮮 ぴょんやん編〜

【ちょっとビビったツアーの面々】

 参加者全員プロレス フリークだとばっかり思っていたのに、実際にプロレスだけが目的という人は意外にも少なく、もっぱら北朝鮮への興味が先行していたみたいだった。あとは里帰り。ツアー参加者の約半分が北朝鮮の人で、国同士の都合に阻まれて北朝鮮に入れなかった人たちが、里帰りという意味をこめて参加していたのだった。 搭乗手続きをしているとき、周りにいる人達のことごとくが違う色のパスポートを持っていて、このツアーの意味合いが瞬時に理解された。

【大同江(テドンガン)ホテルの周辺探索】

 ツアーには日本から同行してきたツアコンの韓さんと北朝鮮サイドのガイド二人の金さんが同行した。観光ルートは完全に計画・管理されていて常に彼らが一緒である。これは親切というのではなく、完全に見張られているということなのだ。
 ところが一方でホテルの周辺などを探索する分には、たいして規制も厳しくなく、かなり自由に見て廻れた。北朝鮮に入る前は、いらんことをすると拉致されて、もう日本に帰れなくなるとか、とんでもなぃウワサが飛びまくっていたが、そんなことは全然ない。ただ、アメリカ ナイズされた洋服を着ている我々はやはり、ピョンヤンの町では相当、浮き上がった存在であることは間違いないわけで、まったく客寄せパンダの気分だった。

【参加できなかった選手たち】

 実は韓国人である長州力や木村健吾らは、国情もあって今回の大会には参加出来なかった。本来はこういったことから問題意識を高めて行くべきなのだろう。最も身近な南北問題と言えるのではないか?

【先生】

 何故かツアコンの人達も売店の売り子さんも皆さん全員が我々のことを“先生”と呼ぶのである。難だか妙な気分だが、これも彼等なりの熱烈歓迎のシルシなのだろうと納得する。ありとみは“どうせやったら<社長> って言われた方が気分ええナァ”ともっともなことを言う(笑)

 

 

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