メヌエットシリーズ2

cherry-blossom





 一体、あれからどのような手順を踏んで、今のような状態になったのであろう・・・その過程の記憶というもの
が、翔には全くない。気がつけば、堀内と2人、全裸の姿となって、一枚の布団にもぐりこんでいた。いつの間
にか、部屋の明かりは、すっかりと消されてしまっている。それでも、今夜は、ことのほか月が明るい夜で、カ
ーテン越しに注がれる淡い光が、部屋の壁の白さをぼんやりと浮き立たせている。

 翔は今、奥の6畳間に居た。

 いつもなら、翔と歩が仲良く2人布団を並べて眠る部屋に、今夜はその真ん中に布団を一枚だけ敷いて、堀
内と同衾している。

 まともな常識で考えてみれば、絶対にあり得るべき状況ではない。だが、自分と同じ男である堀内という人
間に、自分の身を捧げようと決めてしまった時点で、世間一般的な常識や固定観念などというものは、翔の
頭の中から一気に吹き飛んでしまっていた。今では、もうこの男の事しか考えられない・・・こんな状況になる
べくして誘ったのも自分である。だが、堀内に自分に全てを見られてしまっているという羞恥と、堀内との行為
によってこれから自分の身に起こりうるであろう自身の体の変化の事を思うと、やはり、まだすんなりとはいか
ない。堀内が無理強いしないせいもある。同じ布団に寝ながら、翔は、未だ堀内の顔も直視していない。

 堀内は、ただ、その翔の体を背後からそっと抱き締めて、翔の髪を優しく愛撫している。堀内の体の中心に
ある雄の器官は、既にこれ以上ないほどにまで固く張り詰め、翔を求めているというのに、堀内は、翔の体に
対して、何もしようとはしない。まるで自分自身の忍耐力を試しているかのように、じっと堪えているのである
が・・・

 その堀内の右手が、突然、翔の前の部分へと回ってきた。

「!?」

 悪戯にさまよった手は、おもむろにその翔の体の中心にある男としての象徴をギュッと掴んだのである
が・・・

「ぎゃんっ」
「・・・んとに、色気ねぇなぁ」

 翔の肩越しに、堀内はくすくすと笑っている。色気も何も・・・確かに今、堀内の手によって触れられた翔の体
の部分は、性的にとても快楽を感じられる部分ではあるが・・・なにぶん、今の堀内の触り方は余りにも無造
作すぎる。まるで、食卓の上に置いてある箸や茶碗を掴むような気軽さで翔のその部分に触れてきたのだ。

「何するんだよっ、いきなりっ」

 背中越しに、翔が堀内を詰る。

「いや・・・先輩、緊張しているかなと思って・・・」
「余計なお世話だっ、するんだったら、さっさとしろよっ」

 翔の言葉に反応した堀内が自分の体の向きを変えた。翔の体を反転させて仰向けにすると、その肩を自分
の腕で抱いて、翔の体に覆い被さるような姿勢を取った。これで、もう翔は堀内の視線から逃れる事は出来な
い。堀内はじっと翔の顔を覗き込んでくる。

「・・・先輩の顔・・・すごく赤い・・・」
「うるさいっ、そんな事、わざわざ云われなくても分かっているよっ」

 甘いムードにはかなり程遠い。どうして、いつも自分は、こんなにも可愛げなく堀内に絡んでしまうのか・・・
せめて、こんな時くらいしおらしく居たいのに・・・だが、いちいち突っかかってくる堀内も悪いのだ。

 熱のこもった堀内の潤んだ瞳が、翔の全てを静かに見下ろしている。

「・・・先輩・・・俺の事、恐い?」
「・・・なんで・・・?」
「だって、先輩の体、すごく震えている・・・」

 堀内にそう指摘されるまで、翔は自分自身のそんな体の反応に全く気付かなかった。それが、これから堀
内と一つになれるという期待と感動の為なのか、それとも、過去の行為で受けた堀内に対する恐怖の為なの
か・・・自分でも良く分からなかった。

「無理しなくてもいいんですよ・・・って、云ってあげたいところだけど、俺・・・多分もう我慢出来ない・・・」
「余計な心配するなよ。俺に遠慮なんて一切する事はない」
「・・・先輩」

 翔の額に、まるで挨拶のような軽いキスを一つ落としてから、堀内の唇はゆっくりと下に降りてくる。

「堀内っ」
「先輩、恐かったら、目閉じていても良いから」

 シーツを握り締めようとしてもがいた手を、片方ずつ、それぞれ堀内の両腕によって絡めとられる。指に指を
絡ませて、しっかりと握り合った状態で、それは、翔の意思とは全く関係なくシーツに縫いとめられる形となっ
た。

 ゆっくりと、堀内の唇が翔の鎖骨を這う。

「・・ん」

 もう無駄口を叩いている暇は一切なかった。肌を這う柔らかい感触に、翔は眉根を寄せる。翔の体の奥で、
二度と思い出したくなかった苦い過去の記憶がうっすらと蘇ってくる。自分は、確かにこの感触を知っている。
そう、あれは・・・

「――や」

 その事実を思い出した途端、無意識に体を捩った。自分の心は、こんなにも強く堀内を求めているというの
に、体がまるで自分の云う事を聞かない。堀内に忠誠を誓いたくて、全てを委ねたくて・・・プライドまで投げ捨
てて、自分からこうなるよう誘ったというのに、体が堀内を受け入れてくれない。堀内の唇から与えられる愛撫
は、今、ここで翔と抱き合う堀内とはおよそ同一人物とは思えない――荒んだ目をしていたあの夜の堀内と
の行為を思い出させてくれて、本能的に翔は体を竦みあがらせてしまう。

「・・・やっぱ・・・駄目・・・」

 がちがちの緊張と恐怖に翔は全身を硬直させる。そんな翔の体の変化に堀内は気付いているはずなのに、
その行為を途中でやめようとはしなかった。

 しっかりと握り締めている翔の手を自らの背中へと導いて、そこに掴まるよう無言でそう指示する。

「堀内・・・堀内・・・お願い・・・」

 とうとう翔は泣き出してしまった。固く瞑られた両の眦から熱い涙が頬を伝っていく。

「泣かないで・・・先輩・・・大丈夫だから・・・」

 翔の涙に気付いた堀内が、一度愛撫の手を止めた。それから、翔の耳元に口を寄せると、翔を宥めるよう優
しくそう語りかけた。堀内の声に反応した翔が、ゆっくりと瞼を開く。

「堀内・・・」

 視線が合った途端、また、翔の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。その涙を堀内は舌で丹念に吸い取った。く
すぐったいような目尻への愛撫に、翔の体が、ゆっくりと弛緩し始める。

「・・・ん・・・や・・・」

 元々快感には素直な体なのであろう。再び与え始めた堀内の愛撫を、今度は健気に受け入れている。堀内
の背中に自分の腕を回して、そこに必死になってしがみついて、じっと何かに耐えている。それは、やはり、
未だ克服出来ない堀内に対する恐怖であるのか、それとも・・・

「・・・ああっ――」

 そっと伸ばした手で、堀内は翔の分身に触れた。先ほど握りこんだ時とは明らかに形が違う。少しずつ反応
しつつあるそれは、堀内に確かな自信を与えてくれる。

「先輩・・・」

 優しく握りこみながら、それを上下に擦る。同じ男である。どうすれば、そこが一番強く快楽を得る事が出来
るか、分かりすぎるほど良く分かっている。

「――やっ・・・あんっ・・・や・・・あっ――堀内っ・・・」

 網で掬い取られた魚のように、全身を淫らにくねらせながら、翔は身悶える。意識ある状態で、他人に自ら
の物を扱われる事など、もちろん初めての経験に違いない。堀内の巧みな手淫に、翔のその部分は、瞬く間
に昇り詰めていってしまう。

「――あ・・・」

 張り詰めた分身が、今にもその快楽の証を解放させるかと思われたその瞬間、意外なほどの冷静さで、堀
内の手が翔のその部分を離れた。

「・・・?」

 体内に込められた熱を外に放出出来ぬまま、翔の全身は大きく喘ぐ。火をつけられたままの状態で、中途
半端に放り出された自分の体がひどくつらい。翔の分身は今にも暴発しそうなほど固く張り詰め、その先端か
らは甘露の雫が零れ始めている。

「・・・なんで・・・」

 中途半端に愛撫を止められてしまった翔の顔は期待を隠せない。堀内は、そんな翔の表情を満足そうに見
ると

「やんっ」

 素早い動きで翔の両腕を掴みあげて、それを一纏めにすると、翔の頭上に拘束した。そのままバンザイの
姿勢となって無防備に晒されていた翔の淡い色をした乳首を、堀内は躊躇う事なく口に含む。

「やだっ・・・ああっ・・・・ん――」

 只でさえ敏感になってしまっている体である。まだ経験の浅い未熟な翔の体には、つらすぎる強い刺激であ
った。再び、涙を流して全身を躍らせながら、翔は喘ぐ。

「いやっ・・・あっ・・・うっ――堀内っ――」

 イキたくてもイケない――イカせてもらえない。直接的快感が得られるその部分に、堀内は一切触れようと
はしないで、ただ刺激に弱い乳首ばかりを激しく責め立てているのだ。舐めて吸って、優しく噛んで――堀内
から与えられるその刺激の一つ一つに、翔の体は大袈裟すぎるほど大胆に反応する。普段の清楚なイメージ
の翔からは全く考えられない嬌態――うっすらと上気した肌・・・ただひたすらに快楽の極みを望み求めて、自
身の欲望も露に淫らに腰を揺らす姿は堀内を誘っているようにも見える。あられもない嬌声をあげて・・・その
口元には飲み込めなかった唾液が糸となって伝っていた。

「頼むっ――堀内・・・もう・・・」

 おそらく翔は、もう自分で自分が何を云っているのかほとんど意識出来ていないのであろう。浅ましくも自ら
のモノを堀内の足に擦り付けながら、翔は必死になって哀願している。

「いいよ・・・先輩・・・1回出しちゃいなよ」

 翔の耳元で堀内が優しくそう囁く。

 散々焦らして、体中の感覚を高めた上で、堀内の手は再び翔のその部分に触れてきた。

「あっ・・・あ――」

 艶かしい嬌声をあげながら、翔は自らの欲望を解放する。迸る翔の快楽の証を、堀内は器用にも自分の掌
で受け止めた。青臭い栗の匂い――粘り気のあるそれを翔へと示す。

「・・・や・・・だ・・・」

 快楽の余韻を体に纏わせたまま、翔は潤んだ目で、堀内のそんな行動を激しく非難した。自らが放った快
楽の証・・・そんなもの、わざわざ見たくもない・・・思わず視線を逸らしかけた所で

「先輩・・・何かクリームみたいなものないですか?」

 唐突に、堀内にそう聞かれる。

「?」
「ハンドクリームでも軟膏でも何でもいいんですけど・・・」

 急に何を云われているのか分からず、翔がキョトンとした顔で首を傾げていると、更に

「俺、まさかこんな事になるって予測していなかったから、全く準備していなくて・・・ホントはローションがあれ
ば一番いいんですけどね、先輩、もちろん、そんなモノ持っていないでしょ。このままヤッたら、先輩の大事な
部分に傷をつける事は目に見えているし・・・潤滑油代わりになるものが何もなかったら、コレ代用するしかな
いんですけど・・・別にいいですよね?」

(――この男は・・・)

 あきれて何も云えない。堀内の質問の意味が、ようやく翔にも分かった。慣らしたいのだ・・・翔のアノ部分
を・・・確かにこのまま何の準備もしないでいきなり挿入されてしまったら、間違いなく翔のアノ部分は裂けてし
まうであろう。男同士が結ばれるには、それなりの手順があると云う事は翔にも分かる。でも、だからと云っ
て・・・

(今、ここで俺に向かってそんな事を云うのは、あまりにもデリカシーがなさすぎなんじゃねぇのか・・・?)

 翔は、思わず恨みがましい目をして堀内を睨みつけてしまう。

「・・・なかったら、これで代用させてもらいますけど・・・」

(いいから、早くやれよっ)

 不思議な事に、先程、堀内の愛撫を受けていた時に、あんなにも翔の心を満たしていた堀内に対する恐怖
心が一切消えてなくなってしまっていた。堀内の行為によって与えられた快感が、それを大きく上回っていた
からか――何も答えず、じっと堀内の顔を睨みつけている翔の返答を、堀内は肯定と取ったようで、ソレを掬
い取った指が、何の前触れもなく翔の体の最奥の部分に侵入してきた。

「うわっ」

 不意を突かれて、翔はまた、つい色気のない叫び声をあげてしまう。が、堀内は翔のそんな様子には全く頓
着せず、ただ淡々と指を進めてくる。両膝を立たせた翔の両足を大きく左右へと割り開かせると、その中心に
自分の体を滑り込ませてくる。そうして、翔のソノ部分をしっかり自分の視界に捉えてから、先程、翔が自らの
手の中に放った愛液を使って、ソノ部分を根気良くマッサージし始めた。

「・・・あ・・・」

 当たり前であるが、その入り口はかなり狭い。翔がソノ部分を使うのは、今日で二度目であるが、それも、
今となっては随分と過去の話だ。

「や・・・堀内――」

 翔の全身が強張る。元来、モノを受け入れるべき場所ではないので、リラックスした状態でも、その容積は
かなり狭い。それを、今の翔は、全身を硬直させて堀内の指を拒んでいる。

「先輩、力を抜いて・・・これ以上、進めない・・・」

 以前にも堀内に云われた事がある台詞だと思うが、一体どこをどうやってそんな部分の力を抜けばいいの
か・・・翔には全く見当がつかない。意識すればするほど、余計に過剰な力が加わってしまう。

「痛っ――堀内っ・・・痛いって――」

 とうとう我慢出来なくなって、翔は暴れ出してしまった。指はまだ一本目をようやく呑み込ませたところであ
る。職人のような真摯な顔つきとなって黙々と作業していた堀内は、翔のそんな様子に思わず溜息をついた。
 その溜息を聞きつけた翔の表情が一瞬綻ぶ。

(無理だと分かって・・・あきらめてくれたか)

 自らが招いた状況であるのにもかかわらず、ついそんな甘い結末を期待してしまう。一度、欲望を解放させ
てもらった翔はいい。だが、先程から散々翔の嬌態を見せ付けられてきた堀内の欲望はずっとそのままなの
だ。もちろん、そんなつらい状況を堀内が許せるはずなどなく・・・

(!?)

「堀内っ!?」

 あっと思った瞬間には、もう遅かった。ぼんやりと霞む視界に、翔は、自らの下股に潜り込む堀内の頭を捉
えた。抗えない力で、左右に割り開いて固定されているその足の中心にある翔のモノは、堀内の温もりにしっ
かりと包み込まれてしまっている。

「や・・・あっ・・・んっ・・・堀・・・内・・・」

 我が身に起こっているこの状況を、翔は信じたくなかった。堀内は、先程精を放ったばかりの翔の分身を何
の躊躇いもなく自らの口へと含んでいるのだ。たとえ、自分のものであっても、主に排泄器官として使うソコを
意図して口にしたいとは絶対に思わない。ましてや、今日はいろいろ在りすぎてシャワーも浴びていないの
だ。だが、この男は、そんな事は全く気にせず、翔を追い上げてくる。

 ただでさえ敏感なその部分に薄く被っていた皮をはいで、濃厚な舌先の愛撫で丹念に舐めあげ、裏筋にま
で舌を這わせてくる。

「いいっ・・・あっ・・・あんっ」

 一方で、堀内は翔の内部への愛撫も怠っていなかった。巧みな舌遣いで翔の分身を吸い上げ翻弄しながら
も、その指先は翔の最奥を穿っている。分身への愛撫で翔の全身の力が緩む隙を見計らって、どんどん指を
奥に進めていった。

「あ・・・は・・・」

 もう翔には、何が何だか全く分からなかった。今、自分を捉えているこの感覚は痛みなのか・・・快楽なの
か・・・まともな思考が機能しない。ただ、堀内から与えられる行為に、壊れた振り子のように、不規則に頭を
左右へと振り続けながら全身を震わせている。

「いや・・・ん・・・う・・・」

 一体、今、自分の内部は、堀内の指を何本受け入れているのだろうか・・・気が付かない間に、そこはかな
りの圧迫感を強いられている。一本?二本?三本?そんな翔の疑問に答えるように、その中に挿入されてい
た指が、まるで意思を持った生物のように、各々動き始める。

「んっ・・・う、う・・・」

 嫌な感覚だった。腸壁を外へと引きずり出されるようなおかしな感覚――それさえも、性器へと直接与えら
れる愛撫によって、快感へとすりかえられてしまう。

「くっ・・・や・・・」

 堀内もまた必死だった。翔に快楽を与える為、陵辱による恐怖を取り除く為、自分が出来得る限りの手管を
使って、翔の為にと必死に奉仕する。

「あっ・・・ああ――」

 その堀内の指先が、翔の内部にある一点の場所を掠めた時、翔の全身が大きくわなないた。

「・・・ここか・・・」
「いやっ、堀内っ」

 翔の分身から一端口を離した堀内が神妙な顔をして、ボソリとそう呟いた。

 が、そう呟きながらも、一向に愛撫の手を緩める気配はない。その指の動きは一層激しさを増し、先程自分
が見つけ出した一点を執拗に擦りあげている。

「やあ・・・んんっ――うっ・・・」

 翔はもうほとんど正気を失ってしまっていた。堀内の指に、自分の最奥にあるその一点を突かれる度に、今
迄一度も感じた事がないような凄まじい快感が翔を激しく襲う。その一点を擦られる度、自然と腰が揺らぎ、
自分を穿つ堀内の指を強く締め付けてしまう。快楽を与えてくれているその指を、もっと奥に誘い込もうとし
て、翔のその部分の粘膜は貪欲に蠢いているのだ。

「――ああっ・・・もう――」

 翔が腰を揺らす度、張り詰めた分身の先端から雫が滴る。自分の許容範囲を遥かに超えた激しい快感に、
翔は気が狂ってしまいそうだった。今の自分は、もう人間ではない。ただ単純に快楽のみを求める、己の欲求
に正直な動物でしかない。

「堀内っ・・・頼むから――もう・・・」

 先程とほとんど同じ状況である。射精に繋がるような凄まじい快感を与えながらも、いざ、その段になると、
堀内は翔のその部分には一切触れようとしない。あと一擦り、あと少しの刺激があれば翔は昇りつめる事が
出来るのに、堀内はわざとそれを無視している。

「・・・堀内・・・頼む――」

 息も絶え絶えになった翔が、嬌声混じりにそう哀願する。もう、翔は自分で自分が何を云っているのかさえ、
全く認識出来ていないのであろう。うつろな目でぼんやりと堀内を見つめたまま、必死に縋ってくる。

「・・・仕方ありませんね・・・」

 堀内のその言葉を聞いて、一瞬、弛緩した翔の肉体に、凄まじい勢いで、突然、堀内が押し入ってきた。

「!?」

(――いやぁっ・・・――)

 翔は声も出なかった。自分の予想を遥かに超えた余りの痛みに、悲鳴を喉に貼り付けたまま身じろぎも出
来ない。いや、痛いなんて言葉で形容出来るような生易しい感覚ではない。体の中心にある一番敏感なソノ
部分を、熱い鉄の楔で貫かれたような感覚だ。体中がジリジリと焼け焦げていくような凄まじい痛み――快感
なんて全く感じられない。さっきまであんなに夢見心地だった翔の分身は、激痛にすっかり萎えてしまってい
る。

「う・・・」

 真っ青な顔をして、翔は必死に堪えている。散々慣らしておいて貰ったおかげか、幸い出血はしていないよ
うだ。でも、限界まで引き伸ばされたソコは、切なげに喘いで、一刻も早く解放の時が来る事を健気に待ち望
んでいる。

「先輩・・・」

 堀内の息が、翔の耳にかかった。吐息混じりのそれは、翔を誘惑して、甘美で艶やかな世界へと誘ってくれ
る。堀内の腕の温もりが、湿った若草のような汗の匂いが、今、自分の下半身を貫く実感と伴って、翔にこの
上ない安堵感を与えてくれる。今、自分は確かに堀内と繋がっているのだ。堀内と一つになって、その全てを
共有しあっているのだ。悦びも憎しみも恐れも悲しみも――その全ての感情を分けあっている――同じよう
に、痛みや快感や、その他ありとあらゆる感覚も共感しあえばいい。自分達は、決して一人ではない。自分の
側にいつも比翼の如く堀内が居て・・・お互いがお互いを支えあっている。決して離れられない二人であると、
お互いよく分かっている・・・だから――

 翔は、ゆっくりと顔を上げた。苦痛で涙に滲む瞳を堀内へと真っ直ぐに向けて、しっかりとその顔を見つめ
た。

「堀内・・・」

 はっきりと伝えておきたかった。今の自分の想いを――自分の全てを――自分の口から、堀内にしっかりと
伝えておきたかった。眉根を寄せた苦しげな表情のまま、翔は呻くようにその耳元に囁く。

「俺・・・お前が好きだ・・・多分、俺の人生で、今迄出会った人達の中で一番・・・お前の事が好きだ・・・俺・・・
誰かの事をこんなに愛しいと思ったのは初めてだ・・・」

 もちろん、自分の息子である歩は別格である。歩以外の、例えば、幼なじみの佳奈であるとか、歩の母親
の里佳子を想う時の気持ちとは明らかに違う。その人の抱かれたいと思う気持ち――体を繋げて一つになり
たいと思う気持ち――この気持ちは・・・紛れもなく恋なのだと思う。

「先輩・・・」

 翔のソノ部分に収められていた堀内がピクリと戦慄いた。自分でも、良く我慢出来た方だと思う。はっきり云
って、堀内のソノ部分はかなり限界だった。こっそりと翔の耳に口を押し付けると、堀内は小さく呟く。

「動きますから・・・先輩、なるべく体の力を抜いていてくださいね」
「えっ!?――」

 翔がまだ何も承知していないうちから、恐るべき性急さで、堀内は自分の腰を動かし始める。一旦動き始め
た堀内に一切の加減はなかった。挿入から暫くの間じっとしていた事で、幾分痛みと圧迫感に慣れてきてい
たとは云うものの、乱暴に動かされればかなり痛い。再び、気が遠くなるような痛みに耐えながら、翔は堀内
に必死に縋る。

「あっ・・・あっ・・・あ・・・」

 堀内の背中に回されていた翔の手は、いつしかその汗ばんだ肌に鋭く爪を立ててしまっていた。指に肉が
食い込む感触に気付かないほど、翔は堀内の動きに翻弄されてしまっている。

「うう・・・う・・・」

 いつ終わるとも知れない悪夢のような痛み――この苦痛に翔が耐えているのも全て堀内の為なのだ。堀内
が求めるというのなら――堀内が欲しいというのなら、今の自分は自分の持ちうる全てのものを堀内に差し出
しても良い――

「ああっ――」

 ふと、翔の喘ぎが嬌声へと変わった、最奥を穿つ堀内の分身が、先程見つけ出したばかりの翔のポイントを
うまく捉えたのだ。それは、前立腺という男の快楽のポイント――

「やっ・・・あんっ・・・あっ」

 再び、翔は喘ぎ始めた。ソコを突かれる事によって、さっきまであんなに萎えてしまっていた翔の男としての
象徴も、再びゆっくりと首をもたげてきた。堀内の腰の動きに合わせて、拙いながらも、自らも必死に律動す
る。

「堀内・・・もう・・・」

 再び頂点がやってきた。堀内に散々突かれて・・・翔のソノ部分は、きつい収斂を繰り返し、食いちぎらんば
かりの激しさで堀内自身を固く締め付けている。そのあまりの締め付けの強さに、先に堀内に方が耐え切れ
なくなった。

「くっ――」

 我慢出来なかった堀内が、翔の内部に熱い奔流を注ぎ込む。ややあってから――いつの間に握りこまれて
いたのか、堀内の手に刺激される形で、翔の分身も精を放っていた。そのまま全身の力が抜けてしまったよ
うに、堀内の体が翔の上に倒れこんでくる。

 2人して荒い呼吸を整えながら、静かにその余韻に浸っていた。まるで800メートルダッシュを一気に走り
抜けたような心地良い疲労感――幸せだった。2人して、初めて何かをやり遂げた充実感に、今、2人は包ま
れていた。

「堀内・・・」

 翔の呟きに応じるように、堀内が翔の額に優しく口付けてくる。その堀内の耳に口を寄せて、翔は小さく呟
いた。

「好きだよ、堀内・・・ずっと、俺の側に居て・・・」

 それは翔の本心から出た真実の言葉であった。実質プロポーズとも受け取れる言葉を、翔は真剣に口にす
る。

「俺も――」

 堀内は、そんな翔の体を自分の腕で優しく包み込みながら言葉を返す。

「先輩の事、大好きです。ずっと一生先輩の側に居ますから・・・」
「うれしい・・・」

 はにかんだ笑みを残して、堀内の肩に自らの顔を埋める。そうして、2人は、いつまでも抱き合っていた。
 時々思い出したように、高めあって・・・求め合って・・・そんな2人の姿を、窓にかけられたカーテンの隙間か
ら覗く月だけが静かに見守っていた。






「ほらっ、翔っ、翔っ、いつまで寝ているのよっ」
「!?」

 翌朝目覚めた翔は、自分の目の前に今ここに居るはずのない幼なじみの顔を見て、ひどく驚かされた。

「佳奈っ、何で、お前、ここに・・・」
「失礼ね・・・人を化け物みたいに云わないでよ」

 その枕元にちゃっかりと腰を下ろして、佳奈は、朝っぱらから丹念に化粧してある顔を不快に歪ませながら、
翔を見下ろしている。

(まずいって)

 翔はあせっていた。昨晩の記憶は、まだ翔の頭の中にしっかりと残っている。昨日、確かに自分は堀内と結
ばれたのだ。何回か求め合った後、そのうち疲れ果てて、いつの間にか泥のように眠り込んでしまった・・・一
体、いつ!?・・・その辺りの記憶は、どうも定かではない。そもそも、ろくに後始末もしないで、そのままの状
態で寝てしまったのだ。つまり、堀内と求め合った姿のまま・・・所謂裸という奴で・・・

「あれ!?」

 ふと、布団の中にある自分の体を見ると、きちんと服が着けてある。それも、いつも翔が寝巻き代わりに着
ている少しくたびれたスウェットだ・・・おかしい・・・一体、いつの間に・・・自分で着替えたという意識は、翔には
全くない。

(もしかして、堀内が・・・?)

 お互いの体液で相当汚れていたはずの体も綺麗に拭き清めてある。布団の中でわずかに身じろぐ度、そこ
はかとなく疼く痛みが、昨日の行為を確かに物語っているのであるが、その相手となった堀内が、翔の側に
居ないのだ。

「堀内は?」

 腰を庇いながら、のろのろと起き上がった翔が、佳奈にそう尋ねる。

「帰ったわよ」
「・・・へ?」
「1時間目があるからって」
「そんな・・・」

 素っ気なく答える佳奈を気にせず、翔はその表情にありありと落胆の心情を示した。そんな翔の様子を、佳
奈は苦笑いして見ながら

「――で」
「?」
「どうだったのよ、昨晩は」

 まるでエロオヤジさながらの表情で、露骨にそう聞いてくる。

「な・・・」

 質問の内容に、翔が耳まで真っ赤になってうろたえていると

「ま、聞かなくても、あんたの顔見たら分かる。良かったね。うまくいったんだ」

 そう云いながら、片目を瞑って茶目っ気たっぷりのウインクを翔に送ってきた。

「佳奈・・・お前って、やっぱすごい・・・」

 昨晩の事に関して、翔はまだ一言も佳奈に云っていない。が、些細な表情の変化や仕草などで、自分の事
は全て佳奈にバレてしまっているのだ。そう思って、翔が感心していると

「当たり前じゃん。何年、あんたの側についていると思っているのよ。良いなぁ、早く私もそんな相手が欲し
い・・・」

 最後の一言はやけに実感がこもっていた。男の翔から見て、佳奈は決して魅力のない女性という訳ではな
い。なのに、未だ特定の相手がいないと云うのは、もしかして、自分が佳奈の側に居るからなのではないか
と、翔はこの頃真剣にそう考えていた。自分が幼くて、随分と頼りなげだから、佳奈はいつも自分から目が離
せなくて、自分の心配ばかりしているのではなかろうか。だが、佳奈はそんな心境さえも楽しんでいるような
節がある。

「で、あんたも堀内も過去のトラウマはしっかりと乗越えたんだ」
「多分・・・」

 堀内に抱かれて、嫌だと思ったのは最初だけだった。体が堀内を無意識に嫌悪して・・・だが、それも、愛撫
によって与えられた快感の前にあっけなく崩れ去っていった。

「考えすぎなのよねー。あんた達は」

 したり顔で佳奈は云う。

「え?」
「案ずるより生むが易しって事。人間の体なんて、あんた達が思っているよりも、ずっと単純に出来ているもの
なのよ。エッチなんてさ、ただ人間の体の機能的な結びつきに過ぎないんだから、深く考えずにバンバンやっ
ちゃえばいいのよ」
「佳奈・・・お前、それちょっと飛躍しすぎ・・・」

 相変わらず、歯に衣着せぬ過激な佳奈の物云いである。

「でも、もっと大切な事もある」
「え?」

 表情を変えて、今度は穏やかな口調で、まるで翔を諭すかのように佳奈は語り始める。

「それは、目に見えない愛の形を相手に伝えるに、やっぱりセックスは一番有効な手段だって事。気持ちの通
じ合った2人が、実際、お互いの手で触れ合って、肌で感じ取れる気持ちってやっぱ一番信じられるモノだと
思う。堀内に抱かれて、あんたこの上もなく幸せだったでしょう?」
「そりゃぁ、まあ・・・」

 頬を染めながら、翔は素直にそう答えてしまう。確かに、佳奈の云う通りなのだ。

「それに、しっかりとマーキングしておいてもらった方が、私としては管理が楽だし・・・」
「・・・?」
「あんたの事よ。この際だから、みんなの前でしっかりと恋人宣言しちゃいなさいよ」
「ええーっ!?」

 爆弾発言である。そんな事・・・クラブのみんなの前で宣言したら、天地がひっくり返ってしまうほどびっくりし
てしまうに違いない。いくら、世の中オープンになったとはいえ、生ホモカップルを身近で拝める機会など滅多
にあるまい。もちろん、翔もこれが人事であったならば、きっとそう思ってしまうであろう。

「・・・そうだな・・・それもいいかもしれない・・・」
「あら、いやに素直じゃない」

 翔の性格からいくと、絶対に反論してくるだろうと、佳奈はそう踏んでいたのに・・・なのに、翔は

「俺さ・・・変な見栄張るのやめたんだ・・・」
「・・・・・・・・」
「変に意地張って、自分のちっぽけなプライド守ったって何もいい事はないって・・・それよりも、いつも自分自身
に対して正直でいなければ、自分にとって本当に大切なものまで失ってしまう・・・その事に気付いたから・・・
俺・・・」
 静かに、佳奈は翔の言葉に耳を傾けていた。

「勉強したんだ、あんたも」

 見守るような温かな視線で、佳奈は優しく翔を見つめている。

「いつまでも子供じゃなかったんだ。一応、成長しているんだね、あんたも。よしよし、大きくなった」

 からかうような口調で、佳奈は、翔の頭を軽く撫でた。

「よせよっ、俺は立派な大人だっ。これでも、一応歩の父親なんだぞっ」
「子供が子供産んじゃって・・・じゃなくて、育てちゃって・・・」
「佳奈っ!!」

 憎々しく怒鳴りつけても、全く相手にしてもらえない。翔と佳奈は、いつもこんな調子なのだ。これまでも、こ
れからも――多分、これから先も・・・ずっと、きっと――

「ところで、あーちゃんは? ちゃんと園に行ったのか?」
「大丈夫、ちゃんとご機嫌で行ってくれたわよ。ほら、あーちゃんの担任の先生、何て云ったっけ?」
「香坂先生?」
「そう、その香坂先生、今日はパパはどうしたんですかってあたしに聞くからさ、昨晩から男友達のところに泊
まりですって、そう正直に答えてやったら、真っ青な顔になってんの」
「佳奈・・・」

 生き生きとした表情でそう語る佳奈の顔を見て、翔は深く確信した。わざとだ・・・知っていて、佳奈はわざと
楽しんでいるのだ。

「ね、朝ご飯、まだなんでしょ。私、さっき、コンビニでおにぎり買ってきたから一緒に食べようよ」
「サンキュ」

 屈託なく笑う佳奈を見ながら、翔はしみじみと思った――自分は世界最高の幸せ者だと――歩が居て、佳
奈が居て、そして堀内が居る。

 あの男と手を携えて生きていく事を、翔は自分の意思で選んだのだ。本当に・・・自分は、世界で一番の幸
せ者だと思う。

「いけねぇっ、もうこんな時間っ、林田の教育原理、もう間に合わねぇじゃんっ」
「代返頼んどけば、ついでに私の分もお願い」
「佳奈っ」

 いつも通りの朝、いつも通りの時間、こんな何気ない営みの中でも、翔は、つい叫びたくなってしまう。

 自分は堀内が好きなのだと。こんなにも堀内を想っているのだと

(堀内――)

 おそらく、これから自分達が進もうとしている道は、翔の想像を遥かに超えた厳しい茨の道であろう。それさ
えも、今の自分達の前には、全く問題にならないような気がした。自分がこんなにも強い意思を持つ人間であ
ると云う事を、翔は、今、初めて知った。

本当の意味で愛する人が出来た時にこそ、人は、人間としての本当の強さが得られるのである。


Fin

約2ヶ月間の間、ご愛読ありがとうございました。
次シリーズの連載は、アネキ連載終了後(笑)となります。
よろしかったら、是非またおつきあいくださいませ。

2004年8月12日UP



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