Joker

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 庭に設置された監視カメラの前を堂々と横切って、二人は再び燃え盛る屋敷の中へ飛び込んだ。

 煙を吸い込まないように息を止めながら、先程の地下室目指して廊下を一気に走りぬけていく。

 石で囲まれたその場所なら、このまま焼け焦げになる心配はなさそうだ。

 その場所へ通じる入り口のある部屋に幸いまだ火は回っていない。二人は急いでそこから地下へ降りた。

 堅牢な石造りの回廊を思わせるその場所は、ひんやりとした空気に満ちている。先程ここで揉みあった男が垂れ流した小便の跡を横目で見ながら、蛇腹のような道を二人は更に奥へ進んだ。

 ここにはこの組の命運を握る数十億円分の金塊が詰まれているという。洞穴の至る所に木箱が積み上げられていて、二人はその中身をいちいち確認していった。

 まず、地上へと続く階段に一番近い場所に積み上げられていた木箱からは、おびただしい量の銃や弾薬が出てきた。

 二人はそれらを勝手に拝借して自分達の装備を整えていく。

 ガラクタに見える銃器にもそれなりの価値があって、市場で売りさばけばかなり値が張るものなのであろう。

「相変らず阿漕な商売をしていやがる。おい、そっちの箱は何が入っている?」

 男よりも先に支度を終えた中川が次に開けた箱からは、整然とファイリングされた古い書類の束が次々と出てきた。

「・・・これは?」

「おそらくこの組の闇帳簿だろう」

 パラパラとそれをめくる中川を飛び越し、男は次の箱に手をかける。だが、四方に釘を打たれ、頑丈に蓋をされたその箱は、素手でとても開ける事が出来ない。

 二人で力を合わせ持ち上げようとしたが、それでもびくともしない異常な重さに、男はその箱の開封を諦め、地面に尻餅を付いた。

「駄目だ、びくともしねえ」

「やけに頑丈な箱だな。中には一体何が入っているのだろう?」

 真剣な顔でそう尋ねた中川に、男は軽く微笑んでみせる。それから、箱を背にその場に座り込んだ自分の横に中川を誘った。

「来いよ」

「?」

 さり気なく差し出された手に導かれてその場に腰を下ろした中川の上に男が覆いかぶさってくる。

 灰で煤けた男の顔はそのまま中川の唇を捉え、二人はそこで熱い口付けをかわした。

「・・・・・・・・・・・・・」

 重ねあっていた唇を一度離し、目で互いの意思を確認しあう。暗闇の中でほの暗く光る男の目は中川を求めていて、中川も艶に濡れた目で男に応える。

 暫しの間、互いに無言で唇を貪りあった。

「ん・・・」

 背中を抱きしめていた男の腕が体の前に回り、中川の着衣を脱がそうとする。座ったままもつれ合った二人は、自然とお互いの股間を押し付けあった。

「・・・は・・・」

 下着の中に忍び込んできた男の手が、中川の分身を捉える。男の手の中で、それは少しずつ勢いを増し、先端から甘い蜜を滴らせている。

 その蜜の在り処を指で確かめながら、男は中川をゆるゆると扱き始めた。

「あ・・・つっ・・・あ・・・」

 細い腰を揺らめかせて、中川は男の愛撫に応える。髪を振り乱し、唇を噛んで、必死に欲望に耐えようとする禁欲的なその表情が、男の欲望をますます刺激した。

「・・・くっ・・・あ・・・」

 押し開いた胸元に顔を埋め、胸に生る小さな果実に唇を寄せる。既に硬くこりかたまっていたその実を唇で食み、舌で軽く舐る。

 つんと尖ったその感触に堪らず歯を立ててしまったら、中川の喉から艶かしい声が漏れた。

「ああっ」

 小さく体が慄き、不意に中川を包み込んでいた男の掌がわずかな熱を帯びる。ぬるりとした体液を己の掌でしっかりと受け止めながら、男は再び中川の唇を奪った。

「う・・・んん・・・」

 口付けを受ける中川もまた男の体に手を伸ばしていた。男が穿いていたズボンに手をかけると、それを下着ごと脱がそうとする。自ら膝立ちとなり、腰を上げて男も中川に協力した。

「あっ・・・や・・・」

 狭い下着の中を這い回っていた男の手が中川の尻に触れる。その中心にある小さな窄まりに男は己の中指を突き立ててくる。先程中川が放った体液で多少はぬめってはいたものの、いきなりの挿入は、中川にかなりの苦痛を与えた。

「!?」

「悪い」

 痛みに慄く中川の耳元で、男は謝罪の言葉を囁く。それでも、その指の動きは一向に止まる事なく、狭い容積を必死に押し広げようとしている。

 中を探るように動いていたその指が性器の裏側にあるしこりに触れた時、中川の体の中心に甘い痺れが走った。

「ああっ・・・」

 艶かしい声をあげ、身を震わす中川の体を抱き締めながら、男は指の動きを早めていく。中川は中川で、男の着衣の中から取り出した分身を己が掌で押し包み、指でそれを刺激していた。

「は・・・」

「・・・っ・・・」

 粘膜を弄るぬちゃぬちゃという生々しい音と、お互いが吐く荒い息遣いが、静寂の中にこだましている。

 先程からずっと続いていた激しい緊張が二人をそうさせてしまっているのか、敵陣の中に居ながら、互いの欲望を止める事が出来ない。

 その欲望に流されるまま、二人は今まさに互いの体を重ね合わせようとしていた。

「来いよ」

「・・・って、まさか、ここで最後までする気か?」

「こんな中途半端な状態で今更やめられるかよ」

「!?」

 指を抜き持ち上げた中川の体をその場に四つん這いにさせて、男は背後から中川を貫こうとする。指で慣らした入り口に、己の分身をあてがい、先端のぬめりをそこに塗りこめていく。

 双丘の間でヒクヒクと震える粘膜を押し開いて、男の刀身が少しずつ中に入ってくる。身を切られるような激しい痛みに、中川は息を押し殺して啼いた。

「う・・・ううっ・・・」

 痛みに耐える中川の喉から漏れる嗚咽が、男の欲望をますます高めていく。こんな時に不謹慎な事ではあるが、今日の中川はいつも以上に締まりがいい。

 痛みに萎えた相手の分身に手をやりながら、男はじっくりとその感覚を堪能した。

「あ・・・あっ・・・」

 ゆるゆると手の中にあるモノを扱いてやると、男を包み込んでいる中の壁がきつく収斂する。淫らにうねるその壁に分身を揉まれ、そのままイッてしまいそうになる。

 分身を食いちぎられるかと危惧されるほどのきつい締め付けは中川独特のもので、一度この体を味わってしまったら、もう二度と他の体は抱けないとも思う。

 内と外から攻めていく事で、中川の分身は男の手の中で再びその容積を増しつつある。

 上着の前をはだけ、尻だけ丸出しにした姿で腰を揺らめかせる中川の姿は、堪らなく扇情的で、男の行動に更なる拍車をかけた。

「!?」

「まだイくなよ」

 一度中に収めていたモノを引き抜いて体位を変えた男は、今度は自分が仰向けとなり、その上に中川を載せた。そそり立つ男の剛直が真下から中川を貫いく。

 その剛直を根元まですっぽりと呑み込んだ中川の苦悶の表情を、男は余す事なく堪能した。

「くっ・・・」

「力を抜いて、そのままゆっくりと息を吐いて・・・そう」

 眉根に皺を寄せ苦悶に耐える中川の表情は非常に魅力的ではあるけれども、このままでは男が動けない。

 緊張でガチガチになった中川の体を無理に揺さぶれば、体に傷をつけてしまいかねない。

 手を伸ばし触れた背を男が優しく撫で続けていると、強張った中川の体から少しずつ力が抜け落ちていく。

 そのタイミングを見計らって、中川を気遣うようゆっくりと身を起こした男の指が、涙に濡れる中川の頬に触れた。

「!?」

 男に触れられた事で、自分が無意識のうちに涙を流していた事に中川は初めて気付いた。目尻に溜まる涙の粒を、男の指先が優しく掬い取っていく。

 男はその涙を、自分が強いた無茶な行為によるものとそう解釈した。

「・・・悪い」

「別にこれはあんたのせいじゃない」

 男の気持ちに気付き、手の甲で慌てて涙を拭う中川が、男には堪らなく愛おしく思える。何度か男と体を重ね合わせていながら、いまだその行為に慣れない初々しさが、男から見た中川の魅力でもあった。

「まだ、痛むか?」

「少し・・・だが、我慢出来ない痛みじゃない」

 男と体をつなぎ合って、こうして一つになる、自分にとって、それはむしろ嬉しい痛みだと中川はそう云って笑う。

 その健気な笑顔が、男の胸の内を激しくかきむしった。

「あんたは、俺にはもったいないくらいのいい男だな」

「由香が選んだ男だ。そう悪くもあるまい」

 そんな冗談を云い合い、笑いあっているうちに、中川の体が男に慣れ、体の緊張も随分と緩んでくる。

 その様子を目で確かめながら、男はゆるゆると腰を動かし、下から突き上げるようにして中川を刺激した。

「あっ、あっ・・・」

「そうだ、その調子、呼吸を俺に合わせて」

「あ・・・ん・・・っつ・・・」

 男の腰の上で、中川の体が大きくしなる。体の揺れに合わせ、男を銜え込んでいる局部もそのうねりを増す。

 中川の内で激しい挿送を繰り返していた男が、やがてその波に呑まれ、全てを搾り取られてしまう。

 それと同時に、男の手の中の中川が大きく爆ぜた。

「ああ・・・」

「つっ・・・」

 イった瞬間、自分の上に崩れ落ちてきた体を抱きしめて、男はその唇を奪う。ブルリと背筋を震わせながら、中川は暫し射精の余韻に浸った。

「・・・・・・・・・・・・」

 無言で互いの顔を見つめあっていた二人が、ゆっくりと体を離す。中川を串刺しにしていた男のモノが中から引き抜かれ、中川はぐったりとその場に身を横たえた。

 その横に男が仰向けに寝転がって、大きく天を仰ぐ。石と土壁に囲まれたその場所の天井は思ったより高く、ちょっとやそっとの衝撃では、そうそう崩れそうにない。

 ここに監視カメラがない事は来た時に確認済みで、それ故、男はここで中川を抱いた。そうする事で、男は心の落ち着きを少しずつ取り戻しつつあった。

 体の欲望が充たされる事で心も充たされたのか、先程まで心に重く圧し掛かっていた不安や焦りが、今は嘘のように軽く感じられた。

「・・・不思議だな」

「ん?」

 男の側に横たわっていた中川が不意に口を開く。男の顔に視線を合わせようとして体を横向けにしたら、中川の下股から男の欲望の証がどろりと滴り落ちた。

「拭けよ」

「!?」

 ポケットから取り出したティッシュを男は中川に手渡す。受け取ったそれで穢れを始末しながら、中川は男を見て静かに微笑んだ。

「不思議だな・・・俺はあんたと居ると、どんな事でも出来そうな気がする」

「へえ・・・」

「自分がどんどん大胆になってきているような気がする」

 男と居ると、自分の感覚がどんどん麻痺してきて、この世の常識とか決まりごととか、世の中の秩序というものがどうでもいい事のように思えてくる。

 警察官であった中川は、これまで世間一般の常識の枠組みの中だけで生きてきたが、男と行動を共にするようになってから、そんな自分の常識はどんどん崩れつつある。

「由香は借りてきた猫のように大人しい女だったが、あんたはその真逆だな。正直、あんたのような型破りな男があいつの兄貴だなんて、すごく意外だ」

「あいつはまかり間違ってもこんな所であんたを求めたりしないだろうな」

「当たり前だ」

 慎み深い彼女は、行為の最中に声を出す事も控えていて、中川とはごくノーマルな行為しかした事がない。二人が抱きあう場所も、必ずどちらかの部屋のベッドの上で、晩生な二人はラブホテルにさえ入った事がなかった。

 そんな自分が、勢いとは云え、こんな所でこんな大胆な行為に及んでしまっているなんて、これまでの中川の常識からは全く考えられない事だった。

「こんな図々しい男は、あんたの好みじゃないか?」

「あんたとあいつが似ているのは、その顔だけだな」

 どちらかといえば女性的な細面の顔のパーツの中でも、寂しげな瞳がよく似ていると思う。心の奥底に憂いを秘めた清んだその瞳に中川は強く惹かれた。

 性別は変われど、男の瞳の輝きは、彼女のそれと少しも変わりはしない。

「だが、あんたは由香じゃない。あんたは由香の兄貴だ」

 そうと分かっていながら、強く心惹かれてしまう。そんな自分を中川はどうにも止める事が出来ない。

「あんたはあんた、由香は由香――どちらも、俺にとってはかけがえのない相手だ」

 きっかけは確かに彼女かもしれないが、今となってはもうそんな事はどうでもいい。

 今のこの気持ちを大切にしたいと中川は思った。

「俺にとっても、あんたは唯一無二の相手だ」

 妹とはまた違った意味で、中川の事を愛おしく思う。それが生まれて初めてした恋である事に、男は今更ながら気づいた。

「あんたと居ると、俺は自分がどんどん貪欲になる」

「馬鹿」

 その言葉からとんでもない事を想像して、思わず頬を赤らめた中川を見て、男は苦笑いする。

「いや、そういういやらしい意味でなくてさ――あんたと二人、まともな日が当たる道を歩いてみるのもいいかなって、ふとそんな風に思ってしまう。それが自分に一番縁のない世界だと分かってはいても、いつかあんたとそこに行きたいと思う」

「行けばいいさ、いつか」

「?」

「この復讐に全てカタがついたら、どこか外国へ行って二人で暮らすんだろう? あんた、前に俺にそう云ったじゃないか」

たとえ、それが永遠に叶えられる事のない夢であったとしても、夢見る事ぐらい許されていいと思う。

 男と二人で、誰も自分達の事を知らない土地へ行って、そこで二人だけの家を建てる。誰にも干渉されず、ずっとこんな風に愛し合って暮らしていけたなら、どんなに幸せだろう。

 だが、現実は

「そろそろ行くか」

「ああ」

 話している間に身支度を終えた二人が、ゆっくりとその場から立ち上がった。最後にもう一度、お互いの装備を点検しあった折、男は早々とその頬に勝利の笑みを浮かべていた。

「チェックメイト――今から、ラスボス攻略といこうじゃないか」

 目の前に立ちはだかる敵を撃破しない限り、二人に未来はない。その敵に向かって、二人は着実に歩みを進めていた。





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