アネキシリーズ 第5弾 

Escape

 18





「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 自分の口元に垂れていた唾を手の甲でぬぐって、たった今、自分が奉仕したソレ諸共、怜人の様子をしっかりと観察してみる。

 俺の口に嬲られた股間は、与えられた刺激に対して、如実な反応を見せているとは云うものの、肝心の怜人自身の意識は未だ夢世界をさまよったままで・・・

 これだけの事をされておきながら・・・この状態になってまで、ここまで熟睡出来るこの男も、ある意味かなりすごいと思うが・・・

「・・・怜人・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おーい、怜人さん」

 念の為、もう一度声をかけてみたが、やはり、何の反応もなくて

(仕方ない・・・)

 俺の呼びかけに目覚めてくれない以上、怜人には申し訳ないが、黙ってこの体を拝借するしかあるまい。この状態で怜人が射精出来るのか、甚だ疑問ではあるが、でも、まあ、この俺がイケたら、それで万事OKという事で・・・

 いつも、俺の方が怜人の云う事を聞いてやっているのだから、たまにはその逆があってもいいよね・・・?という訳で、ここ

(では――)

 天を仰ぐほど猛々しいこのモノが萎んでしまわないうちに、何とか自分の中に取り込んでしまわなくてはとあせった俺は、慌てて自分の服を脱いでその上に跨った。自分の足の間に怜人の体を挟んで、折り曲げた膝とその対極につけたつま先で自分の体を支えて、ゆっくりと腰を進めていく。騎乗位なんて俺は今まで一度もやった事はないけど、その気のない怜人のモノを自分の中に収める方法として、俺にはこのくらいの事しか考えつかなかったから・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 じっと息をつめて、そっとそっと自分の腰を落としていく。いつも受け容れているものだから、きっと大丈夫なはず・・・だが、自分で無理矢理そう思い込もうとしている俺の気持ちに反して、体の方はやたらと緊張してしまっていて

「――いたっ」

(!?)

 その先端を中に押し込もうとして、尻をわずかに落としただけで、俺は即座に悲鳴を上げてしまっていた。

(・・・なんで・・・?)

 俺的にはすぐに入ってくれると思っていたものが、なかなか入ってくれない・・・少し冷静になって考えてみれば、それも当たり前の事で・・・俺の体が男を受け入れる事に関して、いくら慣れっこになってしまっているとは云うものの、その行為に到るには、それなりの下準備がちゃんと必要なのであって、その過程なくしては、血を見ない限り、それは絶対不可能な行為でもある。

 元々、中にソレを受け容れるように出来ている女の器官とは違って、俺達がその代用品として使っているその穴は、通常、その行為とは全く別の働きをしている器官であって・・・それを、まずその為の器官へと変えねばなるまい。

 すなわち、そのモノが容易く入るよう、指や口を使って、事前にその入り口を十分に広げておかなければならない訳で・・・

(そうだった!!)

 って、そんな大切な事に今更気付く俺も、相当な馬鹿だと思うが・・・

 とにかく、今はそう云って、自分を責めている場合ではない。怜人のモノが受け容れられるよう、一刻も早くその部分を慣らさねばならない訳であるが、いつも他人任せのセックスしかした事のないこの俺が、自分でそんな事をした経験は、これまで一度もなく

(・・・ど、どうしよう・・・)

 欲しいのなら、早く自分の指を突っ込んでそうしてしまえばいいのに・・・臆病者の俺に、やっぱりそれは出来ない。人にしてもらうのならまだしも、敏感なその部分に自分の指を突っ込むなんて・・・普段、怜人や真が何気なしにやっている事ではあるが、あれは元々手先が器用で、その道に通じているあの二人だから出来る行為であって・・・いくら、自分の体ではあっても、ぶきっちょな俺に自分の体を任せるなんてそんな・・・

 自分で云うのもなんだが、自分の指で自分の体を傷つける事だけはごめんだ・・・そうは云っても、この状況じゃ・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 怜人に跨った姿勢で腰を浮かせたまま、そんな事を考えてしまっていた今の俺の姿は、傍から見たら、とても滑稽な姿であっただろう。スるのならスる、しないのならしないで、早くその体の上から退いてしまえばよいものを、その決断を自分ではなかなか出せずにいた・・・怜人とエッチはしたいけれども、その下準備を自分でする事が出来ない・・・だったら、その行為自体をすっぱりとあきらめてしまえばよいものを、どうしてもそれが出来ない・・・といった、無限のループの中に、俺は閉じ込められてしまっていて・・・

(・・・どうしよう・・・)

 ここでいくら俺が悩んでいたって仕様がない・・・するのか、しないのか、答えは二つに一つしかない訳で・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

(・・・けど・・・やっぱり、恐い・・・)

 今、自分の下の入り口の前で、入りそうで入らない微妙な距離を保って待機しているそれを、自分一人の力で中に呑み込むなんて事、どう考えても、やっぱりこの俺には出来そうもない。この小さな窄まりに、それが無事収まるとは思い難い。それこそ、大出血してでも、無理矢理押し込んでしまうか・・・だが、人一倍痛みに弱い俺に、元より、そんな根性がある訳もなく・・・

(・・・仕方ない・・・ここまでやったら、もういい・・・あきらめよう)

 その痛みを思い浮かべる事で、ようやくその踏ん切りをつけた俺が、怜人のその部分から自分の身を退けようとしたら

「!?」

(え・・・?)

 それまで、自分一人の力だけで支えていたはずの腰が、いつの間にか、怜人の逞しい腕にがっちりと捉まえられてしまっていて

「・・・れ・・・怜人・・・!?」

「よう」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 眠っていたはずなのに・・・この人は、俺がその体にイタズラしても全く気がつかなかったほど、ぐっすりと眠り込んでいたはずなのに・・・

「・・・な・・・な、何で――」
「何でって、それはこっちの台詞だ。お前こそ、そんな格好で、人の体の上で何をしている?」
「!?」

 半身丸出しで、ついでに前もしっかりとおっ勃たてたまま、怜人のその部分に跨ってしまっていたのだから、俺がしようとしていた事は、怜人にも一目瞭然であって

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 それまで俺の顔にじっと注がれていた怜人の視線が、ゆっくりと俺の全身を這う。今の自分のこの浅ましい姿をその冷たい目でじっくりと検分されてしまっているのかと思ったら、自分の中に堪らない羞恥心がこみ上げてきて

「・・・なして・・・」
「あ?」
「・・・頼むから・・・この手を離して・・・」

 この恥ずかしい自分の姿を今すぐ怜人の目の前から覆い隠したい・・・出来る事なら・・・今すぐ、ベッドを降りて、この部屋から逃げ出したい・・・そう思って、俺がかけた言葉を、怜人は、そんな俺の思いとは全く正反対の意味に受け取ってしまったようで

「離すってこうか?」

(!?)

 俺の目を見つめていた怜人が、意味深にニヤリと笑った刹那

「――なっ」

 未だ天を仰ぐほど硬く反り返っていた怜人の分身に、俺の体は一気に串刺しにされてしまっていて

「あああっ」

 頑なに口を閉ざしていたその部分を引き裂く怜人の肉の熱さに、自分の目の前が血の色で真っ赤に染まった。このまま、その痛みに、意識が飛んでくれる事を願ったが、現実はそんなに甘くはなくて

「・・・た・・・」

 無理に押し込まれたソレを外に追い出そうとして、自分の体が反乱を起こしている。自分の体の重みも加わって、根元までしっかりと銜え込まされてしまったソレを押し潰そうとして、中にある壁がしきりに収縮しているのが自分でも分かる。今すぐ腰を上げて、自分の尻に刺さるその異物を取り出したいとそう望んでいるのに・・・腰にかかる怜人の手が、それを俺に許してはくれなくて・・・怜人はますますぐいぐいと、俺の尻に自分のモノを押し付けてくる。

「・・・れい・・・と・・・も・・・や・・・」

「痛いか?」

 自分の意思とは全く無関係に、目尻から涙が次々と零れ落ちてくる。涙のせいで、すっかり幕のかかってしまった目で、その相手を見つめてみれば、ぼんやりと滲む視界の向こう側で、怜人はサディスティックに目を細めて笑っていて

「・・・や・・・いた・・・い・・・」
「だが、じき慣れる」
「ぐ・・・」

 そう云った怜人が自分の体の動きを止めて、俺のその部分が怜人のモノの大きさに馴染むまで――そのつかの間の時間が、俺には地獄のように感じられた。頭の奥がジンジンと痺れて、激しい耳鳴りがする。その痛みを堪えようとして、ぐっと奥歯を噛み締めていた自分の口から、声を押し殺したくぐもった悲鳴が自ずと零れ落ちてくる。体中の毛穴から噴出した冷たい汗がじっとりと自分の肌を伝っていく。痛みと緊張でガチガチとなった体を怜人に捉えられながら、俺はただひたすら、その時が来るのを待った。

 やがて

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まだ、痛むか?」
「!?」

 そう云って、ゆっくりと動かされた怜人の腰の動きに、俺が、その怜人の思惑通り、痛み以外の感覚を感じ始めていたのも事実で

「・・・あ・・・」

 思わず漏らしてしまった俺の甘い声を合図に、怜人は下から俺の体を激しく突き上げにかかる。重力の力も借りて、いつもより深く自分の中に入り込んでしまっている怜人に、自分の贓物の中身をグチャグチャに掻き回されて、腰が砕けそうになる。激しく突き上げられた瞬間、自分の体がふっと雲の高みに乗りかけてしまっていて

「・・・う」
「・・・イキたいか?」

 そう出来なかったのは、いよいよというその時に、怜人の手によって、俺のモノの根元をしっかりと堰き止められてしまっていたからで

「や・・・」

 その瞬間、行き場を失ってしまった熱が、自分の体の至る所で小さな爆発を起こす。くすぶっている熱に身を焦がされて、俺は熱い息を漏らした。

「・・・れいと・・・」

 熱に浮かされたようにその名を呼べば、その相手は俺に熱いキスを与えてくれる。

 俺を自分の腹に乗せたその状態のまま、腹筋を使って、その人物が体を起こしたものだから、俺達の結合はますます深くなって

「!?」
「痛いか?」

 キスの合間に俺の耳元に口を寄せて、あやすような優しい声でそう問いかけてくる怜人の言葉に、俺はわずかに首を横に振って答えた。

 痛みではない

 怜人との今の行為で、俺が感じてしまっているのは、今にも自分の腰が砕け散ってしまいそうな凄まじい快感であって

「これも感じるのか?」

(!?)

 そう云って、しっかりと堰き止められてしまっている己のモノの根元に、更に強い力を加えられたが、自分が痛いと思うより先に、怜人を呑み込んでいるその部分が、その刺激に呼応して激しく収斂する。

 かすかに眉を顰めて、その刺激をやり過ごした後、怜人は、俺のモノを握っていた手をようやく離してくれた。

「痛くされた方が感じるなんて、とんだ変態だな」
「な・・・」

 そう指摘されてしまった自分を否定出来ない・・・そんな要素が自分の中にある事を、自分でも認めざるを得ない・・・だからこそ、俺は、こんな最低な男に惚れてしまったのか・・・

「・・・れい・・・と・・・も・・・」
「分かっている」

 俺の囁きにそう答えた怜人の声も、今度はかなり切羽詰っていて

「湊、俺の体に掴まれ」

 その言葉に従って、怜人の逞しい背中に自分の両腕を回すと、その俺の体ごと、怜人は自分の腰を激しく突き上げてくる。俺の体を自分の両足の上に載せたまま、そのまま自分の腰をがむしゃらに動かし始める。ただ己の高みのみを目指して駆け上がる怜人の激しい動きに、俺は、ただついていく事に必死で

「れいと・・・れい・・・」

 先に一人だけイクのも嫌だ・・・後に一人だけ置いていかれるのも嫌だ・・・

 イク時は、俺も怜人と共にイキたい

(怜人、来て――)

 俺の中に早く来て――真の事も・・・俺自身の事も、もう何も考えられなくなるほど、俺を無茶苦茶にして欲しい・・・その熱い楔で、俺の体の奥の奥まで侵して欲しい・・・・そして、出来る事なら・・・その熱でこの体諸共ドロドロに溶かされてしまって、俺は怜人と一つになりたい・・・

「れいとっ――」

 感極まった俺が悲鳴に近いその声を上げた途端、怜人は俺の中で爆ぜた。その大きなうねりに巻き込まれて、俺もほぼ同じタイミングで終息を迎える。自分の体の奥にたっぷりと注ぎ込まれる怜人の熱を自分の肌で感じながら、俺も怜人の腹目掛けて己の欲望をぶちまけてしまっていた。

「は・・・」

 荒れた呼吸を整えながら、しばしその余韻に浸る。

 顔を上げた俺達の目と目が合った瞬間、どちらからともなく唇を重ね合わせてしまっていたのは、俺達のいつもの習慣であって・・・

「湊・・・」
「ん・・・」

 怜人と一緒に居て・・・行為の後の気だるげなこの時間が、俺は一番好きだ。この時にする怜人との優しいキスが俺は堪らなく好きだ。

 いつもは俺にきつく当たってくる怜人であるが、この瞬間だけは、俺を愛おしく思ってくれているのではないかと、そんな甘い幻想を、俺に抱かせてくれる。

 でも、そんな幻想は、俺の事を本気で想ってくれていた真にとっては、決して見たくない悪夢であって・・・

 その悪夢を・・・俺は、今後もずっと真に見せ続けていく気なのか?

 真を俺達の側に連れ戻すという事は、詰まるところ、そう云う事であって・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「湊?」

 かといって・・・その真の為を思って、このまますっぱりと怜人と別れる事も俺には出来ない

 この肌の温もりと、今更離れられるはずない

 そんな事が出来るのなら、こんな深みに嵌まってしまう前に、自分からとっくにそうしていた。

 結局、この俺が真にしてあげられる事なんて、一つもなくて・・・



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