アネキシリーズ番外編 

Tの悲劇



※ このお話は真視点で書かれたお話です。


 最近、湊と怜人の仲が非常に宜しくて、僕としては大変面白くない・・・

 湊を可愛がる時はいつも2人一緒に――3人がこんな関係となって付き合いだすようになってから、僕と怜人の間で決められたその暗黙のルールを怜人が特別に破っているという訳でもないのだけれども、それでも、最近の2人は、その行為の最中に、こっそり僕の目を盗んで2人だけで熱〜いキスを交わしていたりなんかする。

 当初、この関係をあんなにも嫌がっていた僕の可愛い弟でもある湊が、今じゃそのすっかり行為の虜となりつつある。

 あいつ自身、自分では全く気付いていないとは思うが、僕に抱かれている時と怜人に抱かれている時とその反応が全く違う。まあ、湊を抱くようになるまで、その経験の全くなかった僕が、僕と付き合う以前から、バリバリその経験のある怜人に敵うなんて事、逆立ちしたって絶対にあり得ない事だと思ってはいるけれど・・・けど、ここまで、自分の目の前で、2人の仲睦まじい姿を見せ付けられてしまえば、日頃温厚な僕だってイライラくる。

 湊も・・・怜人も・・・そのどちらも、僕にとっては本当に大切な人で・・・そのどちらの人間も、自分にとって絶対に切り捨てられない人だからこそ、僕はこんなにも悩んでいる訳で・・・

 いっそスパッと2人揃って綺麗さっぱり切り捨てる事が出来たら、どんなに楽になる事が出来るだろうってそう思う。

 2人の事を嫌いになれたら、こんなに苦しい思いをしなくて済むのに・・・

 でも、やっぱり僕は、自分と血を分け合った湊の事が大好きで・・・それに、僕の初恋の相手でもある怜人の事もやっぱり忘れられなくて・・・その結果、未だこんなずるずるとした関係に甘んじて執着してしまっている。

 それがどんなにみっともない事であるのか・・・人一倍自尊心の強い僕にはよく分かっているはずなのに・・・そんな自分を止められない――2人を想う気持ちを止められない・・・

 沸々と心に湧き上がってくるこの不満を僕は一体どこにぶつければいいのか――そんな僕のストレス解消法と云えば、やっぱりあれしかないと云う訳で――











 変身場所は客の多い流行のファミレスのトイレでと密かにそう決めている。その場所が店内の隅の方にあったり、その場所への出入りを他の客に容易にチェックされない死角にある場所なら尚更良い。大きなボストンバッグを持った少年がその場所に入っていったはずなのに・・・そこから出てくるのは何故か女性なのだ。それも、その制服姿を見ただけで男どもに異常な興奮を与えてしまう垂涎モノの美女で・・・美女って・・・自分で自分の事をそう表現するのもかなりおこがましい事だとも思うが・・・何を隠そう、男達に甘美な夢を与えるその美女というのは、この僕のもう一つの姿であって・・・

「・・・・・・・・・・・・・」

 スカートを穿く度――口紅を塗る度――自分にはどうしてこんな格好がこんなに似合ってしまうのかと、いつも不思議に思う・・・あるいは、これが僕自身の本当の姿なのではないかと・・・そんな錯覚まで覚えてしまう。世間一般に居る本物の女性よりもこの僕が女らしく見えてしまっているのは、僕が男の幻想の中で創り上げられた理想の女性像をそのまま体現しているからなのであろうか・・・

 いつ見ても――僕のこの女装姿は完璧だと思う。

 僕より美人な女性などそうそう街には居ないであろう。そう思うと尚更愉快な気持ちになれる。

 短いスカートの裾を翻しながら、僕は、軽い足取りでいつものファミレスを出た。











 街に出る前に、小道具としていつも僕が持ち歩いている女性用の鞄以外の全ての手荷物の駅のコインロッカーに預けてしまう。ここから先――街で見知った人間に偶然会ってしまったとしても、僕は絶対に振り向いたりしない。今、この場所に立っている人間は、新島真ではなく、学校帰りに暇を持て余してたまたま街に遊びに来た女子高生であると――今の僕はどこから見ても完璧にそう見えるはずだ。僕のこの姿を見て・・・一見して僕だと見破ってしまえる人間は、僕の弟である湊と、僕の元恋人である怜人以外にはまずこの世に居ないであろう。それほど僕の女装姿は堂に入っているのであって・・・











 その姿の僕が、街をふらふらと歩いていたら、見知らぬ男性からいきなり声を掛けられた。

「あの――」

(!?)

 ナンパならよくある。この格好で街を歩いていたら、それは日常茶飯事の事でもある。まあ、僕の場合、普段の格好で居る時でさえ、男性から声を掛けられてしまう事はしょっちゅうなのであるが・・・

 見知らぬ人間から声を掛けられても、八割方完全無視を決め込む僕がその人物の声に思わず振り返ってしまったのは、その人物の声が、僕の心のどこかにうっすらと記憶に残る声だったからであって・・・ぱっと振り向いて見たその男性は、見た感じ僕とそう余り年の変わらない学生だった。この顔も・・・どこかで見た事がある。誰だっけ・・・?よく見てみると、この少年は僕の弟の湊が通う学校と同じ制服を着ている。

「湊のお姉さんですよね?」
「・・・・・・・・・・・・・」

 僕を見て・・・お兄さんではなく・・・お姉さんとその少年は云った。湊という名前を知っている以上、湊の知り合いに違いはないのだろうが・・・それにしても・・・この少年・・・湊に姉が居ると本気でそう思っているのだろうか・・・?まあ、この格好の僕の場合、どこからどう見ても兄貴には見えないのであるが・・・

「・・・えっと・・・」

 ほぼ初対面に近い人間という事もあって、僕は、精一杯のおべっかスマイルを浮かべながら、その少年が僕のその笑顔に見惚れている間に、その相手の事を必死になって探っていた。えっと・・・本当にこの少年は誰だっけ・・・?この顔、この声・・・どこかで聞いた事があるような気もするんだけど・・・う〜ん、いまいち思い出せない。湊の友達・・・?湊と同じ制服を着ているのだから、多分そうなのだろうけれども、湊が僕に自分の友達を紹介してくれた事なんて今まであったっけ・・・?僕のこの趣味の事を相当恥ずかしく思っているのか、湊は今まで一度だって、自分の友達を自宅に連れてきた事はないし・・・それに・・・この手の顔は、今時の少年に良くありがちな顔だから、一度会っただけではなかなか覚えられない・・・

「・・・・・・・・・・・・・」

 相手の顔をじっと見つめたまま、一言も言葉を発せられない僕に代わって、その少年は自ら自分の名を名乗ってくれた。

「覚えていませんか?前に一度街でお会いした事があるんですけど・・・俺、田中です。湊の友人の・・・」

 ああ、そう云えば――以前、怜人と街中で待ち合わせをした時に、偶然湊とその友人達のナンパ現場に居合わせた事がある。この少年は、その時、湊の横にいた・・・そうだ、田中くんだ――尤も、僕がその名前を知ったのは、後日、湊宛にかかってきた家の電話で、この少年が湊をファミレスでの合コンに誘っていた時であるが・・・あの時、湊は『兄(=すなわちこの僕)が病気だから』という理由でその合コンを断ろうとしていた・・・それを怜人がある条件付で、嫌がる湊を無理矢理その合コンへと出席させて・・・その結果、湊の見張りをしていた僕諸共、怜人の兄だという訳の分からないおかしな男に付け回される羽目となってしまったのだ・・・そうだ・・・そのきっかけとなる合コンをセッティングしてくれたのがこの田中くんだ。別に湊に女の子なんか紹介してくれなくても良いのに・・・湊には・・・何て云ったってこの僕達が居るのだから――

「ああ、そうだっ、田中くんだー」

 声のトーンに気を配りながら、笑顔でそう相槌を打つ。この制服を着ている女の子達特有のキャピキャピとした調子で、僕はなるべく華やかに振舞う。

「やだー、こんな所で会うなんて、すごい偶然だねー」
「ホント、マジ偶然っすね〜」

 何が嬉しいのか、田中はやたらニコニコと笑っている。まあ、街中でこんな美人の知り合いと偶然出会ってしまってはしゃぐこの男の心中も分からなくはないが・・・

「一人?今日は彼氏が一緒じゃないんですか?」
「彼氏って・・・?」
「ほらー、この前一緒に居たじゃないすか〜、こう、背なんかスラーッとしたモデル張りのスゲー良い男」
「・・・・・・・・・・・・」

 それって、もしかして、怜人の事を云っているのだろうか・・・いや・・・間違いなく怜人の事を云っているのだと思う・・・僕がこの格好で一緒に街を歩く相手は怜人しか居ないし・・・ちょうどあの時も、怜人と待ち合わせをしていたのだ・・・

 あの時なら、田中のこの問いかけにこんな悲しい顔をする事はなかっただろう。でも、今の僕は、その怜人との恋人関係をすっかり解消してしまっていて・・・今の僕にとって、自分の恋人と呼べる愛しい存在となり得るのは湊だけだ。

 その事をいちいち説明するのも煩わしく、思わず黙り込んでしまった僕に、田中は余計な気を使ってくる。

「・・・もしかして・・・俺、まずい事聞いちゃったかな・・・」
「いえ・・・」

 本当はそんな事、少しも思っていないくせして、ここで心底悲しい顔が出来てしまう自分の演技力が僕は時々自分でも末恐ろしくなる。

「・・・もしかして・・・お姉さん・・・あの人と別れちゃったとか・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・マジ?うわ〜、俺、マジでまずい事云っちゃった!?――ホント、ごめんなさいっ」
「・・・・・・・・・・・・・」

 こういう時の僕は、今の自分の気持ち云々という事よりも、この演技の方に酔ってしまっていて、田中が云ってくれたとおり、彼氏に振られた傷心の女という役に自然となりきってしまう。

 田中に謝られれば謝られるほど、さほど悲しくもないのに目には涙がウルウルと滲んできて、そのうち本当に泣き顔になってしまっていた。湊にも定評のある僕のこの顔に、もちろんこの少年もイチコロとなる。

「ワーッ、お姉さんっ、こんな所で泣き出さないでくださいよっ〜、俺、なんか苛めているみたいだしっ」

 そう云いながら、ポケットから取り出したハンカチをさりげなく僕の目の前に差し出してくれる。今時の高校生には珍しく、きちんとアイロンの掛けられた清潔なハンカチ・・・別にこの少年がアイロンを当てている訳ではないだろうけれども、こういうハンカチを普段持ち歩くその少年に僕の好感度は一気に上がった。けど・・・慰めるふりをしながら、それとなく僕の腰の辺りを撫でているその手はやっぱり頂けないと思うが・・・

「・・・ありがとう・・・」

 すんと鼻を鳴らしながら、僕はそのハンカチを素直に受け取った。甘いコロンの香り・・・見かけによらず、なかなか粋な香りを身につけているじゃないか。

「・・・ところで、田中くんはここで何をしているの?」
「!?」

 僕のその問いかけに、その田中の動きが一瞬大きく止まる。

「・・・えっと・・・」

 あれ・・・?僕・・・何かまずい事、聞いちゃったっけ・・・?

「・・・もしかして、田中くんこそ、彼女と待ち合わせだったとか・・・」
「まさかっ、俺、今、彼女居ませんからっ――俺、今、完全フリーだし・・・」

 引きつった笑顔で田中が何とかそう云い切ったその抜群のタイミングで

「ごめーん、田中くん、待たせちゃった〜?」

(・・・げっ・・・)

 ――と、あいにく声には出ていなかったが、顔にそうしっかりと書いてある。

「あれ、田中くん、その人は?田中くんの知り合い?」
「・・・・・・・・・・・・」

 これ見よがしに、田中の腕に自分の腕を巻きつけているその女は、どこからどう見ても田中の彼女らしくて、明らかに険を含ませた視線で僕の顔を慇懃に睨みつけてきやがる。そんな目で睨みつけてこなくたって、僕はあんたの彼氏を絶対に取ったりなんかしないから・・・まあ・・・その彼氏の方は・・・僕に好意ありありみたいだけれど・・・

「えっと・・・あの・・・」

 ダブルブッキング――僕にも自分の彼女にも良い顔をしようとして、田中は非常に困っている。こいつ・・・ちゃんと特定の彼女が居るくせして、あわよくばこの僕をおとそうとでも考えていたのか・・・?――ったく、これだから、男は困る――って・・・僕も一応はちゃんと付いているものも付いている男なんだけどさ・・・

 この場合、自分の彼女を優先させて、僕にそう紹介してくれたらいいのに・・・そうすると、僕が心象を悪くすると思ってか、田中はなかなかそれを云い出せないでいる。そのうち、田中の側に居た彼女の方がいらいらときてしまったようで・・・

「ちょっとっ――」
「!?」

 その女の方は女の方で、自分一人で一体何を勘違いしてしまっているのか、鬼のような形相となって僕に迫ってくる。なかなか可愛らしい顔をしているのに・・・そんな恐ろしい顔したら美人が台無しだって・・・まあ、もちろん、僕より格は落ちるけど・・・

「ちょっと、あなた、田中くんとはどんな知り合いなのっ?」」
「・・・・・・・・・・・・・」

 どんな知り合いって・・・いきなりそんな事を聞かれても、この場合、僕には答えようがない訳で・・・そもそも・・・僕とこの男の間において、「関係」なんて言葉で表現されるようなものは全くない・・・しいて云えば・・・全く他人の関係・・・?

「ちょっと、何で黙っているのよっ」
「ミ・・・ミサキさん・・・」

 頭に完全に血が上りきってしまっている女は、田中の声に一切耳を貸そうとしない。どうやら、この僕の事を田中の浮気相手であると勝手にそう勘違いしてしまっているらしくて・・・

 そんな目で見られてしまうと・・・僕はまた自然にその役を演じてしまう・・すなわち・・・ちゃんとした特定の彼女が居るくせして、他の女に手を出そうとした田中の浮気相手として・・・いや・・・実際、田中は僕にまだ何もしていないのだけれども・・・タイミング良く彼女が登場しなかった時のその後の展開はほぼ見えていたようなものだし・・・女の敵として、こういう男はやっぱ早めに懲らしめておくに限る。

 そう思った僕は、涙をいっぱいに溜めた目で田中の顔をじっと見つめてやった。

「・・・彼女・・・やっぱり居るんじゃない・・・」
「いや、あの、これは・・・その――」
「別に隠さなくても良いのよ・・・田中くん・・・優しくてとっても素敵な人だから・・・彼女ぐらい居ても当然というか・・・私一人が・・・勝手にいいなあって・・・そう思っちゃっただけで・・・」
「・・・お姉さん・・それって・・・」

 すぐ側には、現在自分が付き合っているその相手がいるというのに、それらしくうっすらと頬を染めた僕が俯き加減にそう云ったら、田中は生唾をごくりと飲み込んだ。

「私・・・全然気にしていないからっ――彼女から田中くんの事を奪ってやろうなんて、そんなの全然考えていないからっ、だから、私の事なんか全然気にしないで、田中くんは彼女とお幸せにっ――」

 そのタイミングで、僕は顔を俯けたままスカートの裾を翻して、2人の間から走り去っていく。

「お、お姉さんっ――」

 背後から追いすがってくる田中の声を振り切るようにして、僕はその場から去った。

 僕が思い描いていた通り――その後、往来のど真ん中で、恥ずかしげもなく彼女が田中を激しく詰る声が、風に乗って僕の耳にも届けられた。











 その日の夜、いつものファミレスで着替えを済ませ、自宅に帰りついた僕に意外な人物から電話がかかってきた。

 玄関先で靴を脱ぐ僕の元に、帰宅早々、湊が不思議そうに首を傾げながら、わざわざ受話器を持って駆けつけてきた。

「何?」
「電話――俺の友達の田中から――ほら、真、前にも一度電話で話した事があるだろう?あの合コンの時に・・・その田中が何だか訳の分かんない事云っていて・・・何でも良いから、とにかくお姉さんを出せって・・・お姉さんって・・・多分、真の事だろう?」

 そう云いながら、湊は不快そうに眉を顰める。僕が一番僕らしく振舞えるこの高尚な趣味が、この弟には未だひどく受け入れ難いものらしくて・・・

「居ないって、ちゃんとそう云ってくれた?」
「もちろん、云ったさ――大体、そんなもん、初めからこの世に絶対に存在しない訳だし・・・けど、俺がいくら何を云っても、田中、俺の話を全然聞いてくれなくてさ――お前は俺のチャンスを潰すのかとか・・・なんか一人で全然訳分かんない事云っちゃっていてさ・・・とにかく、何でも良いから早くお姉さんを出せの1点張りで・・・俺じゃ埒が明かないから、真が出て何とかしてくれよ」

 そう云って、湊は僕の手に受話器を押し付けてくる。

「・・・仕方ないなあ・・・」

 とぼやきつつ、少し迷ってから、僕はその受話器をしぶしぶ湊の手から受け取った。

「・・・はい、お電話代わりましたが・・・」

 女性の声音をうまく作り出し、僕はその電話に出る。うっとうしく思ってはていても、邪険な扱いをしないのが僕の良い所だ。まあ、大体・・・この件に関して、こうなるべく種をまいてしまったのはこの僕の方でもあるし・・・

『あ、湊のお姉さんですか?先程はどうも――』

 かなりあせった声で田中は僕に応じてくる。緊張して電話機を握るその姿は、その場を見ていなくても今の田中の声色から何となく想像出来た。

「こちらこそ、先程はどうも――」

『それでですねぇ、さっきのお姉さんの話なんですけど――』

 僕の言葉を遮って、田中は無理矢理その方向に話に持っていこうとする。

『あの――実は俺、初めて会った時からお姉さんの事を密かに――』

「あ、ごめん、田中くん、なんか今急にキャッチが入っちゃったみたい」

『え・・・』

 もちろん僕の嘘である。

『お姉さん、待って――俺の話を聞いて・・・』

「ごめん、田中くん、また後でかけなおしてくれる?」

『待って、お姉さんっ――待っ・・・』

 ツーツーツーと無情な発信音をもって、僕はその田中の言葉に答えた。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 リビングに戻って、大きな溜息をつきながら、子機を元の位置に戻していた僕の姿を湊がじとーっとした目で睨みつけてくる。

「・・・真・・・今度は一体何をやったの・・・?」
「その云い方は失礼だなあ・・・僕はいつも何もしていないって」

 そう・・・僕自身はいつも何もしていないのに・・・勝手に群がってくる奴らが僕の周りで勝手にはしゃいで馬鹿をやってくれているだけの事だ。

「・・・ったく、真と関わるとろくな事がないから・・・」

 云っておくが湊、勝手に関わってきたのはあいつの方なんだぞ?僕が頼んで相手をしてもらっている訳でもないんだぞ・・・?なのに・・・湊の云い草でいくと、いつだって僕の方が悪人で・・・

「・・・田中さぁ、ああ見えて意外と純情な奴なんだから・・・あんまりからかわないでやってくれよ・・・」

 その純情な奴が、自分の彼女と僕を二股にかけようとしたり、どさくさに紛れて僕のケツを触ってきたりなんかするかよ・・・?

「・・・湊は・・・人をもっとよく観察する術を身に付けた方がいいと思うよ・・・」
「どういう意味だよ、それはっ」
「別にその言葉どおりの意味」

 およそ他人を疑う事を知らず、馬鹿正直なくらい自分に真っ直ぐなこの弟の行く末が僕は心配でならない。いつ悪い奴らに騙されて遠い異国に売り飛ばされやしまいかと・・・本気でそんな事を心配してしまっている。まあ、湊にはいつも云っているんだけどね・・・知らない人には絶対に付いていってはいけないと・・・

「田中、最近ようやく念願の彼女が出来た所だし・・・」
「あ、でも、もう別れちゃうと思うよ、多分」
「・・・え・・・?」

 湊が驚いた顔で僕を見る。

「・・・何で真にそんな事が分かる訳・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 そうなるよう自分が仕掛けたから――て云うか、そうなる事を狙って、僕が田中に色目を使ったから――などという真実は、可愛い弟には告げないでおこう。

「ねぇ、どうしてー、どうして真がそんな事を知っているんだよっ」

 片頬を膨らませた非常にキュートな顔で、湊は僕に迫ってくる。その弟に、僕はにっこりと微笑みながら優しく云ってやった。

「ね、湊、『二兎追う者は一兎も得ず』ってことわざ知っている?――明日学校に行ったら、田中くんにちゃんとそう教えておいてあげなよ」
「何それーっ」

 ぷうっと、湊の顔が風船みたいに膨れる。全く無防備な分だけ、こういう顔がむちゃくちゃ可愛かったりもする。その愛らしさに、僕が思わず目を細めて見とれてしまっていると

「・・・何だよ・・・」

 いつもの如く、湊が喧嘩腰になって僕に食って掛かってきた。

「別に――何でもないから――それよりも、早く夕食を食べよう」
「何だよ、それ〜、いつも誤魔化すなよ〜っ」

 リビングの棚では、先程僕が子機をしまった際についでに消音にしておいた電話機が、外部からの着信を告げてピカピカと光っている。多分、また田中だ・・・話がややこしくなるから、僕はもう2度とあの男には関わるまいと固く自分の心に誓った。



Fin

もう、真ちゃんったら・・・(笑)


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