■ アネキシリーズ番外編 ■



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※このお話は真視点で書かれたお話です。





「新島 真さんですね?」
「!?」

 その問いかけに僕が答える間もなく、車内から、いきなり伸びてきた手によって、僕の体は、両手に持っていたスーパーの袋ごと、その車の中に無理矢理押し込められた。

 どこかの要人の警護にでも使われていそうな、大きな黒塗りの車の後部座席には、これまた、全身黒づくめの服を着た、見るからに怪しげな風貌の男が二人も座っている。

「な・・・一体、あんた達は、何なんですかっ」

 学校帰りに毎日通っている、こんなに人通りの多い道で、まさか、自分がこんな目に遭おうとは、夢にも思っていなかった。まさかと思うけど、これは誘拐・・・?注意力散漫の僕の弟の湊ではなく、まさか、この僕がその標的になろうとは・・・

 て、いうか、僕の家は、両親二人が毎日必死に働いて、家のローンと子供の学費をかろうじて捻出している、絵に描いたような貧乏家庭で、たとえ、この僕の命を楯に取られてしまったとしても、その僕の為に払える身代金なんてビタ一文だってない。

「ゆ、誘拐だったら、無駄だぞ――僕の家に、あんた達に払えるような金は・・・」
「存じあげております」
「!?」

 ぞ、存じあげておりますって・・・それは、また、随分と失礼な話じゃないか・・・?こんな風に僕を拉致しておきながら、その目的が金でないとなると、一体、何が目的であるのか・・・?もしかして、僕のこの体・・・?

 そんな風に思ってしまった僕が、僕の体を押さえつけている男達の腕から、身を捩って逃れようとしたら

「安心してください。あなたが大人しくなさっている限り、私達は、あなたに危害を加えるつもりはありませんから」
「だったら、一刻も早くこの手を放してくれよ」
「逃げませんか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 スーパーマンでもあるまいし、走っている車の中から、一体どうやって逃げ出せというのか・・・それが可能な事あるかどうか、そんなの、幼稚園児でも分かる。

「分かりました。では、仰せに従って手を放させていただきますが、絶対に暴れないでくださいね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 かしこまった口調とは全くかけはなれた、物騒な容姿の男二人に、自分から喧嘩を吹っ掛けていくほど、僕は馬鹿ではない。全く事情が分からない以上、ここは大人しくしておくに限る。

 大体、この男達は、一体、どこの誰であるのか・・・?何故、僕の名前を知っている・・・?

 そんな事を、僕が訝っていたら、黒服の男達は、僕に向かって、いきなり、頭を下げてきて

「突然、手荒な真似をしてしまって、大変申し訳ありません――ただ、さるお方から、あなたをどうしてもお連れするように命令を受けたものですから」
「さるお方って?」
「それは、今は申し上げられません。今、その方の正体をここであかしてしまえば、あなたはきっと怒ってお帰りになってしまうだろうからと、その方から、固く口止めされております」
「?」

 その正体を知れば、僕が怒って帰る・・・?それって、もしかして・・・

 いや・・・もしかしなくても、きっと、あいつに違いあるまい。僕の身近にいる人間で、この僕にこんなふざけた真似をする相手は、あいつしか考えられない。何となく、僕にも、話が見えてきたぞ・・・

「・・・その人、今、どこに居るの?」
「ある場所で、あなたの到着をお待ちしております。でも、その前に、あなたには先に寄っていただきたい場所があって」
「先に寄ってもらいたい場所って?」
「それは、今から行けば分かります」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 結局、大切な事は何一つ告げられぬまま、僕はその車に乗って、その場所に運ばれてしまう羽目となるのだが・・・

 

 

 ■■■

 

 

「真くん!?」
「斉藤さん!?」
「やだあ、私の事、ちゃんと覚えていてくれたんだ〜」

 喜色満面の笑顔を浮かべて、ホテルと思しき部屋の入り口で、僕を出迎えてくれたその女性は、いつぞや、あの男のホテルの地下衣装室で会った、かの人であって

「どうして、斉藤さんがここに?」

 そんな僕の質問を無視して、彼女は、強引に僕をその部屋の中に連れて入る。

「斉藤さん?」
「細かい話はあとあと、とにかく、急いで支度しなくっちゃ」
「支度って、あの・・・」

 手に持っていた学生鞄と買い物袋を、玄関先で、男達に強引に奪い取られてしまった僕は、その後、身一つとなって、斉藤さんに委ねられた。

 あの時のホテルの衣装室同様、その部屋の中には、斉藤さん率いる沢山の女性スタッフ達が居て

(!?)

「こんにちは、真くん」
「お久しぶり、真くん」
「あ、あの・・・」
「とにかく、今、着ている物を早く脱いで」
「!?」

 え〜、えっ!!今、着ている物を脱げだなんて、いきなり、そんな・・・

「真くん?」
「――っと、ちょっと、待ってくださいっ」

 そんな僕の動揺など、少しも気にする事なく、女性達は、僕の着ていた衣服を早速脱がしにかかってきた。

「ちょっと、ホント、困ります、こんな――」

 男と云えど、今のこの状況には、かなり恥ずかしいものがある。女ばかりの空間で、唯一、僕一人だけが裸でいて

 やがて、下着一枚の状態まで剥かれてしまった僕の体の上に、女性達はバスローブをそっと着せ掛けてくれた。

「ドレスに着替えるより、メイクが先ね。それから、ヘアースタイルもばっちり決めなくちゃ」
「!?」

 ドレス・・・?メイク・・・?自分に対して、これから一体何が行われるのかと、目を瞬かせていた僕を、女性達は、大きな鏡台の前へと導いた。

「前も思った事だけれども、真くんって、ホント、男の子にしておくのには惜しいほど、お肌が綺麗だから、私達も腕のふるい甲斐があるわ〜」
「そうそう、髭だって、ほとんど生えていないし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 生まれつき体毛が薄いのは、男としてどうかとも思うが、そのおかげをもって、僕の密やかな趣味は成立している。その事を、ここのスタッフ達も非常に喜んでくれて

「顔立ちも申し分ないし、そこんじょそこらのモデルにだって負けないわよ」
「そんなの、当たり前でしょ、なんて云ったって、真くんは、私達の自信作ですもの」

 じ、自信作って・・・それは、以前、この人達の手で仕上げてもらったあのウェディングドレス姿の事を云っているのだろうか・・・?そりゃあ、あれは、まあ、この僕だってすごいって思ったけど・・・

 彼女達プロの手にかかった僕は、どこからどう見ても、立派な女の子で・・・いや、あの時の僕は、その女の子以上にすごかったと思う。いや・・・すごいって云うのは、それほど綺麗だったって事で・・・

「今日は、こんな感じでどう?」
「うん、なかなかいい感じ〜」
「!?」

 会話の合間をぬって、僕の肌に上機嫌で筆を滑らす彼女達の手によって、瞬く間に、僕は美しい貴婦人へと仕上げられていった。

「背中の部分が大きく開いたドレスだから、髪はアップにしておいた方がいいわね」

 メイクもヘアースタイルもされるがまま、人形となった僕は、ただじっと彼女達に自分の身を任せていた。自分の目の前にある鏡の中に映る僕は、僕ではない。そこには、もう一人の自分が居て、そいつが、この僕の顔をじっと睨みつけている。その相手の顔に、僕はすっかりと見惚れてしまっていて

「どう?」
「どうって・・・」
「なかなかうまいもんでしょ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 正直、元々女装趣味のある僕にとって、今のこの状況は、非常に嬉しく思えたが、それを悟られてなるまいと、僕は、必死にポーカーフェイスを保った。

「さてと、次はドレスね・・・と、その前に」
「?」

 その言葉と共に、僕を見つめる彼女達の目が、意味深に細められる。

「真くん、ちょっと、こっちに来てくれるかしら?」

 部屋の隅の方にあるカーテンで仕切られた一角で、斉藤さんが、僕に向かって手招きをしている。その手に誘われて、その場所を訪れた僕に、彼女は、あるものを手渡してきた。

「悪いんだけど、服を着る前に、これに穿き替えてくれない」
「!?」

 そう云って、彼女が笑顔で僕に手渡してきたのは、見た目も派手なデザインの黒色の下着で

「な・・・」
「お願い、何も聞かないで、私達の云う事を聞いてっ」

 き、聞いてって云われても・・・いきなり、そんな事を頼まれても困る・・・て、云うか、その下着、どこからどう見ても女性用だし・・・

 そんな僕の不安を、彼女は、いち早く察知したのか

「大丈夫、これ、女性用にしては、股上が深いから、きっと、あなたでも大丈夫なはずよ」

 いや・・・だから、僕が躊躇っているのは、そんな理由ではなくて

「もう、そろそろ、僕をこんな所にわざわざ連れてきた、その理由を教えてくださってもいい頃なんじゃないですか」
「え・・・?」
「これは一体何の真似ですか?あなた達は、一体、何の目的があって、僕にこんな真似を――」
「ストップ、真くんっ――余計なおしゃべりはそこまでにして!!」
「!?」
「とにかく、私達には、時間がないの」

 時間・・・?時間って・・・

「早くしないと、もうじきパーティが始まっちゃうっ」

(!?)

 えっ、パーティ?今、パーティって云った?

「あの――」
「いいからっ、早く!!」
「!?」

 有無を云わせぬ迫力のある目に射すくめられて、結局、僕は、そんな彼女の要求を呑む事となってしまうのだが・・・

「さ、次はこれに着替えて」

 そう云って、彼女が僕の目の前に差し出してきたのは、上質の絹の布地の光沢が光り輝く深紅のロングドレスで

「さ、斉藤さん、これ・・・」
「綺麗でしょ?あなたの為に、彼がわざわざ選んでくれたのよ」
「!?」

 その彼というのが、一体、誰であるのか・・・ここまでくれば、僕にはもう、ほぼその察しがついてしまっていた。あいつ・・・また、おかしな思いつきで僕を弄ぶ気か?何で、この僕が、あいつの為にこんな格好をしなくてはならない訳?

 とは云うものの、元来、女装癖といった、かなり特殊な趣味を持つこの僕が、自分の目の前にかざされたドレスの、眩いばかりの魅力に抗えるはずなどなく

「さ、早く着替えて」

 こんな素敵なドレス、普通の生活をしている限り、まず、滅多に袖を通せるものではない。アカデミー賞授賞式に臨むハリウッド女優じゃあるまいし、こんな服装をして、訪れるべき場所が、僕達凡人には、まずない。それこそ、自分の結婚式のお色直し用ドレスとして、一生に一度、着る機会があるかどうか・・・それも、まあ、男の僕にとっては、当たり前の事ながら、ひどく縁遠い話だ。

 出るところは出て、締まるところはしっかりと締まっている女性の体付きを再現する為に、斉藤さんは、僕の体の至る所に、手際よく詰め物をしていく。特に、胸は、肌の上にシリコン状のブラジャーを直接付けられ、念入りに細工された。

 頭のかなり高い位置でまとめられた髪に、更に付け髪を付けられ、それが、僕の背中で、緩やかなウェーブを描いている。腰にかなり近い部分まで広く背中の開いたそのドレスは、前の露出は、それほどでないものの、ひとたび道を歩けば、太股がチラチラと見えてしまいそうなほど深く、サイドにスリットが入っている。その事を計算に入れてか、彼女は、網目状となった黒のストッキングを僕に穿かせた。

「これで、完成よ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 最後に用意されていたヒールを履いて、カーテンの外に出た僕を、周りのスタッフ達は、賞賛と感嘆の溜息で迎えた。

「真くん、綺麗・・・」
「ホント、とても男の子には、見えない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 彼女達は、そう云って、僕を褒めてくれたけれども、悲しいかな・・・僕の中身は、正真正銘の男――こんな風に、どんなに美しく着飾ってみても、彼女達のような本物の女性には絶対になれない。たとえ、僕がどんなに強くそれを望んだとしても、それだけは絶対に叶わぬ事である。

「外は寒いから、これを付けていくといいわ」
「!?」

 襟元に白いミンクのゴージャスなファーを巻かれた僕は、その格好のまま、部屋の外で待機していた男達の手に渡された。

「それじゃ、あとはよろしく頼むわね」
「かしこまりました」
「真くんも、しっかり楽しんできてね」
「?」

 え?楽しむ・・・?この格好で、僕が楽しむって、一体・・・

 未だこの状況が今一つ理解出来ず、唖然とした顔で佇む僕に、彼女は、にっこりと笑いかけながら云った。

「余計な心配は無用――あとは凛さまがうまくやってくれるわ」





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