■ 人間失格 ■

― 



(!?)

「ああっ」

 思わず鼻から突き抜けて出た甘い声で、俺は自分でその事に気付かされてしまう。何・・・今のは・・・?尻を弄られて、俺はどうしてあんな声を出してしまったのだ・・・?尻に指を入れられて、中を掻き回されてしまっているというのに・・・こんなの絶対にあり得ねえっ!!尻で感じるなんざ、変態じゃあるまいし、ホモでもない俺には絶対にあり得ない事だ・・・なのに、この体は、俺のそんな思いを裏切って、男の指に無様に反応してしまっていた。

 男の指に、尻の奥の方にある、ある部分を押し上げられる度、堪えようのない射精感が一気に込みあがってきて、尻を嬲られる激痛に一度は萎えた俺の性器を、再び硬くさせる。

 その事に気を良くした男は、重点的にその部分ばかりを攻めてきた。

「ああっ、いやだっ・・・そこに触るなっ」

 声を張り上げてそう叫んだ俺の主張も、当然の事ながら、男に無視されてしまう。

 これ以上されると、自分が自分でなくなってしまいそうになる・・・俺自ら、男にその先の行為を強請りそうになってしまう。

 違うんだ・・・これは、俺の本意ではなくて――

 許して・・・もう、本当に許してくれ・・・これ以上、されてしまったら、俺は――

 その瞬間、それまで俺の体をずっと押さえつけていた男の体の重みが、急に俺の上から消えて

「!?」

 代わりに男の手によって大きく割り広げられた俺の両足が、高く持ち上げられたかと思うと、指を引き抜かれて圧迫感をなくした俺のその部分に、男の猛々しいモノが一気に沈んできた。

「あああああああっ」

 指なんかとは全く比べ物にならないその質量感に、声をあげずにはいられなかった。部屋中に響き渡るほどの大声をあげて、そうする事で、俺は何とか自分の意識をこの現実に繋ぎとめようとした。自分の全てが男に引き裂かれてしまったかのようなこの激しい痛みに自分が耐える方法を、俺には、これぐらいしか思いつかなかったから

「う・・・」

 過去にこれほどの痛みを、自分が経験した事があろうか?声を押える為、歯を食いしばってみても、自然と喉から声が漏れてしまう。男のモノを突き入れられた瞬間、一面血の色に染まった視界からおさらばしたくて、堅く瞑った眦から、自分の意思に関係なく、熱い涙が零れ落ちてしまっていた。

「おい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おい、聞こえているんだろう、おい。いいから、目を開けろよ」

 己の凶器で俺を貫いておきながら、俺にそう強要してくるその男の声も、この状況がかなりつらいのか、わずかに震えてしまっている。

「やっぱ、狭いな・・・女とヤる時みたく、そんなに都合よくいかねえか」

 そう思うのなら、俺の中に収めたモノを、自分から抜いてしまえばいいのに

「おいっ」
「!?」
「おい、あんた、さっきから、俺の声がちゃんと聞こえているんだろう?いいから、早く目を開けろよ――おいっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 半分痛みの為にそう出来なかったせいもあるが、俺は頑ななまでに、男のその言葉を無視してやった。もうここまで来てしまったら、これ以上最悪の事にならない・・・これ以上、自分を傷つけられる事もない・・・男の行為を、これ以上恐れる必要のなくなってしまった俺が、自分を抑えてまでこの男の云いなりになければならない理由が、一体どこにある?

 こうなってしまった以上、俺も、とことんまで、この男と戦う・・・そう簡単にこの男に屈したりしない・・・そう決めたのにもかかわらず

「いいよ、そっちがその気なら――」
「!?」

 次の瞬間、更に奥に進んできた男の腰の動きに、俺が鋭い悲鳴を上げたのもつかの間、その姿勢のまま、自分の腰を深く曲げた男は、俺の平坦な胸にいきなり吸い付いてきた。

 俺は女ではないのだから、胸で感じるはずなんかないと、そう思う俺の意思に反して、その部分は、ぷつりと勃ち上がってしまっていて

「へえ、男でも、胸が感じたりなんかするんだ」
「!?」

 そんな云い方をされてしまうと、俺がさも特別のように聞こえるが、刺激に敏感なその部分に触れられてしまえば、誰でもそうなってしまうものだと思う。ただ、それを感じてしまっていると、判断するかしないかだけの事だ。

「ちが・・・」
「違わないだろう?ココ、こんなに赤くしちまって」

 赤くなってしまっているのは、この男が乱暴に吸い付いてくるからであって

「男のくせして、随分とこっちの方の感度もいいんだな、あんた」
「!?」

 真上から俺の顔を見下ろすようにして、男にそう云われてしまった瞬間、俺は恥ずかしさにいたたまれず、ものすごい目で男を睨みつけてしまっていたが、男はその俺の顔を見て、満足そうに笑った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いいねえ、その目・・・ますます気に入った」

 揶揄られていると分かってはいても抗えない・・・そんな自分に心底腹が立った。

「よし、それじゃ、そろそろラストスパートと行きますか」
「!?」

 根元までしっかりと銜え込まされた男のモノの重量に俺が馴染むのを待って、男は自分の腰をそろそろと動かし始める。最初はその中を探るような調子でゆっくりと、そのリズムに俺の体が慣れてきた頃を見計らって、今度はそのスピードを速めてくる。

 仰向けに押し潰されたカエルのような状態となって、男に揺さぶられ続けていた俺の方にも、そのうち、おかしな感覚が芽生えてきてしまっていて

「!?」
「――何?あんた、男とヤるの、初めてのくせして、ケツで感じちまっているのか?」
「ん・・・」

 男のその言葉を、きっぱりと否定する事が出来ない・・・そんな自分が堪らなくみじめに思えてきた。

「・・・やだ・・・」
「?」
「・・・嫌だ・・・こんなの・・・俺は絶対に嫌だ・・・」

 半分べそをかきながら、そんな泣き言を云う俺の顔を、男は真上から悠々と見下ろして云った。

「あきらめな、もう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ここまで来ちまったら、もう引き返せやしない。あんたも、俺も・・・な」

 男はそう云うと、俺に突き入れた己の腰の動きをますます早めてきて

「ああっ――」

 男の熱い楔で奥を一突きされる度、俺は声を張り上げて喘いだ。その時、大きな声を出す事で、俺はかろうじて自分を保っていられたのだと思う。そうでもしなければ、俺は、これまで自分が生きてきた人生観を一気に覆されてしまった、この悪夢のような出来事の中で、とっくに自分を見失ってしまっていたと思う。

 俺はこの部屋の主である由美さんの男であるはずなのに・・・その俺が女の扱いで、男に抱かれてしまっている・・・由美さんの弟である男に体を組み敷かれ、その男の下で女のような声を出して喘いでしまっている・・・こんなの・・・俺の体は認めても、俺は絶対に認めやしない・・・俺は由美さんの男で、こいつの女ではない・・・男にカマ掘られてよがる変態ではない・・・俺自身のプライドにかけて、俺はこんな行為に断じて感じるべきではない・・・必死にそう思い込もうとしている俺の意思に反して、俺の体の方は、男とのその行為の中に、苦痛とはまた別の新たな感覚を見出してしまっていた。

「あ・・・」
「・・・いいのか?ここが――」
「!?」

 ある部分を男のモノで深く抉られる度、その刺激に応じて、中が自然と痙攣して男を強く締め付けてしまう。そのポイントを、男は己のモノで、正確に捉えてきた。

「――いやっ」
「嫌じゃないだろう?こんなに悦んでいるくせして」
「!?」

 男の凶器で尻を貫かれてしまっているというのに、男のその言葉どおり、俺の腰のモノは、自分の足の間で再び勇ましく勃ち上がってしまっていた。俺の上に覆いかぶさっている男が激しく腰を振れば、それが男の腹に擦られて、自分の意識が雲の高みへと乗りかけてしまう。男の腹に擦られてそのまま射精してしまうかと思われた俺のモノが、その瞬間、かろうじて持ちこたえていたのは、そのモノの根元を男の指によってしっかりと阻まれてしまっていたからで

「!?」
「自分一人だけでイこうとするなんて、随分つれないじゃないか」
「や――」

 そう云った後、男は己の腰の動きをますます早めてきて

「あああっ、あっ」

 パツンパツンと激しく肉を打ち付けあう音が、部屋中に響き渡っている。耳を塞ぎたくなるようなその音は、確かに俺のこの体から奏でられている音で、俺自身の快感を表す音でもある。

 尻の穴が、女みたく、その刺激に応じて濡れるなんて話、俺は一度も聞いた事はないが、俺自身、確かに男のこの行為によって、感じてしまっているのだ。

 自分でも否定しようのない、その事実を自分の目の前に突きつけられた俺が、ようやくその事実を認めた瞬間、俺の中を犯していた男のモノが、大きく爆ぜた。

「!?」

 その瞬間、自分の中に流れ込んできた男の熱い奔流を、俺は身震いしながら、自分の肌でしっかりと受け止めてしまっていた。

「う・・・」

 全てを俺の中に注ぎ込んだ男が、やがて、俺の体の上から、静かにその身を退けた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 栓を失ってしまった俺の足の間から、男の体液が、体の下に敷かれたシーツの上にたっぷりと滴り落ちていく。射精の瞬間を男に邪魔されてしまった俺のモノは、結局、最後までその戒めを解いてもらえずに、今も俺の足の間で小さく震えていた。

 自分一人だけイってしまえばそれでいいのか、男は、その存在を完全に無視していて

「・・・なあ、煙草ある?」
「は?」
「あんた、煙草持っている?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 男のその問いかけに、俺は小さく首を横に振って応えた。

 ホストなんて仕事をしてはいるが、生憎、俺はタバコというものを全く吸わない。仕事柄、客が銜えた煙草に火を点けてやる事はしょっちゅうなのであるが、そうやって、自分がいつもその匂いに馴染んでしまっているせいか、私生活でまでその匂いに馴染む気にはならない。でも、この部屋の主である由美さんは

「・・・そこのタンスの一番上の引き出しの中に由美さんのがある」

 掠れた声で、俺がそう教えてやると、ベッドから降りた男は、前を隠す事なく、まっすぐその場所に向かった。

 俺の指示に従って、引き出しを開けた男は、そこにお目当てのものを見つけると

「なんだ、これ、味がスカスカのメンソールじゃないか」

 そんな文句を云いつつも、男は、早速その煙草を自分の口に咥えていて

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 同じ引き出しにあった由美さん愛用のカルティエのライターで火が点けられた煙草から、白煙がゆっくりと立ちのぼっていく。未だ放心状態でベッドの中に居た俺が、その煙の行方を、じっと自分の目で追っていたら

「なあ」
「?」
「あんた、名前、なんて云ったっけ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 つい、先程、由美さんが俺に向かって叫んでいた俺の名前を、この男は、もうすっかりと忘れてしまっているらしい。

「・・・ない・・・」
「あ?」
「俺の名前なんて、あんたが知る必要はないっ」
「どうして?」
「!?」

 どうしてって・・・そりゃあ、俺は金輪際、あんたと二度と会う気はないから・・・悔しいけど、今日の事は、犬にでも噛まれたと思って忘れてやるっ

 そうだ・・こんな男の事よりも、俺は今、俺の性癖に対しておかしな誤解をしたままこの部屋を飛び出していってしまった由美さんを追いかけていかなければならない訳で・・・今の俺には、こんな訳の分からない男の相手をしている無駄な時間は一分一秒だってない。

 そう思った俺が、痛む体にムチ打って、それまで自分が身を横たえていたベッドから、起き上がろうとしたら

「待てよ」
「?」
「どこに行く?」
「どこって・・・」

 とりあえず、今すぐシャワーを浴びて、洋服を着て、由美さんを探しに・・・まあ、そんな事、この男にいちいち教えてやる義理はないが

「・・・どこに行こうと、俺の勝手――」

 そんな捨て台詞と共に、男の側を通り抜け、そのまま部屋のドアに向かおうとしたら、すれ違った瞬間、肩を乱暴に掴まれてしまっていて

(!?)

「何するんだよっ」

 振り向いたタイミングで即座に男をそう怒鳴りつけた俺の顔に、煙草臭い男の唇が急に覆いかぶさってきた。

「な――」

 抵抗しようにも、俺の細い腰をがっちりと掴みこんでいる男の手が、俺にそれを許してくれない。結果、俺は男のその口付けをいやいや受ける羽目となった。

「や・・・」

 こんな事になるくらいなら、ジムにでも通って、もっと自分の体を鍛えておけば良かった・・・力でこの男を振り払えるほどの筋肉をもっとつけておけば良かった・・・なんて、今更、そんな事を思ってみたところで、後の祭りなのであるが・・・

「も・・・」

 頼むから、もう、こんなのは勘弁して欲しい・・・ホモでもない俺が男に抱かれるのは、もう二度とごめんだ・・・そんな恥辱にまみれた俺が、本気でそう哀願しようとしたら、男は俺の体をようやく放してくれた。

「!?」
「・・・何なら、もう一回ヤる?」
「え・・・」

 俺の意見など全く聞こうともせず、一人勝手にいきなりそんな提案をしてきた男に、俺は即座に抗議の声をあげた。

「冗談じゃないっ」
「冗談?」

 そう云って、俺の顔をマジマジと見つめてくる男の目は、異様に据わっていた。

「あんた、ここに来て、まだ自分の立場が良く分かっていないようだな」
「!?」

 この場合の、俺の立場って、一体・・・

 そんな疑問に目を瞬かせる俺に、男は

「いいか、良く聞けよ――今日から、あんたは、俺の男だ」
「は?」
「アネキには俺からそう云っておくから、あんたはもう金輪際、二度とあの女に会うな」

(!?)

「――って、そんな無茶苦茶な・・・」
「無茶苦茶でも何でも、たった今、俺がそう決めた」

 男はそう云うと、あらかた根元まで吸った煙草の火を灰皿に押し付けて消すと、俺の体を、再びベッドのある場所まで引き摺っていった。そうして

「ちょっと、俺は嫌だって云っているだろうっ」
「あんたは嫌でも、俺はあんたとシたい――いいだろう?別に減るもんでもなし」

 いや・・・減るとか減らないとか、そういう問題ではなくて

 だが、結局は、俺もそんな男の申し入れを聞き入れてしまっていて・・・





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