■ 理学療法士 番外編 ■


    OVER  TIME             ACT.5





「やめ、いた・・・」
「痛いの?でも、ここは悦んでいるようだぜ?」

 苦痛を訴えてはいるものの、男達のその言葉どおり、田口の分身は少しも萎えず、解放の時を今かと待ちかねていた。

「ああ、も・・・」

 複数の男達によって、胸に性器に、直接与えられる過剰な愛撫に、田口の分身が大きく爆ぜる。

 男達の輪の中で暴発したそれは、男達の手だけではなく、田口の太股もぐっしょりと濡らした。

「あ〜あ、いっちゃった」

 そのぬめりを借りて、男の指が、更にその奥へと進んでくる。男の指は分身の下にある小さな穴を目指していた。

「!?」
「なんだ、使い込んでいる割には、案外狭いな」

 そこに押し当てられた指が、肉の壁を割って中に進んでいく。

 その指に中を探られて、田口はたちまち甘い声をあげた。

「やっ・・・あっ・・・」
「ここか? ここがいいのか?」

 指をがむしゃらに動かす事で感じるポイントを見つけた男達は、執拗にその部分を責める。

 1本の指が、やがて、2本、3本となり、中が十分に綻んだ頃に、その指は引き抜かれた。

 代わって、男の醜悪なモノが、そこに突き立てられた。

「やっ――」
「なるほど、こりゃ堪んねえな」

 仰向けのまま、押し潰された蛙のような体位をとらされた田口の上に、醜い尻を出した男が跨っている。

 手足を床に押し付けて、そのまま体を揺さぶれば、田口が感極まった声をあげた。その声に気を良くした男が、自身の腰の動きをますます早めていく。

「あああ、あっ・・・」
「どうだ?そいつの具合は?」
「聞きしに勝るって奴だな。もう最高っ」

 暫くして、その男が獣の咆哮のような声をあげて果てると、また別の男が田口の体の上に圧し掛かっていく。

 今度の男は、田口に膝立ちの姿勢をとらせ、背後からその身を犯した。

 その一方で、別の男が田口に口淫を迫っていて

「舐めろ」
「!?」
「いいから、早く口を開けろよ」

 嫌がる田口の髪を鷲掴みにしたその男は、田口の頭を強引に自分の陰部へと導く。

 口元に押し付けられた男のモノを、田口は観念したように渋々口に含んだ。

「そうそう、その調子、結構上手いじゃん」
「そりゃあ、常日頃からいろんな男のモノを銜えているから」

(・・・・・・・・・・・・・・・)

 部屋の入り口に立つ俺の方から、その表情を窺い知る事は出来ない。ただ、俺は何となく、田口が泣いているような気がした。

 どうしてそう思ってしまったのか、その理由は定かでないが、田口がその辱めを受けている間、俺はずっとその場所にいた。

 見なかったフリをして、そこから立ち去ろうにも、足が鉛のように固まってしまって、その行為を止める事も、そこから逃げ出す事も出来なかったのだ。

 体の自由を奪われ、数人の男達に犯されていた田口の姿を見ながら、俺の心は、全く別の空間に飛んでしまっていた。

 その別の空間とは、俺の過去の世界で、そこでは、まだ体の小さかった小学生の俺が、今の田口と同じように、数人の男達に体を押さえつけられている。

 暴れる俺の体に伸びてきた男の手が、俺の着衣を脱がしていた。

『いい子だから、じっとして。いい子にしていたら、何にも痛い事はしないよ』

 優しいその言葉とは裏腹に、欲望を露にして俺を見る男達の視線が、俺は堪らなく怖かった。

 これは、後になって知った事だが、男達は、そうして俺を自分達の手にかけようとした一方で、俺の命と引き換えに水島の家に多額の身代金を要求していたらしい。

 大事な金蔓に手をかけようとしていたなんて、普通ならまず考えられない事だが、子供である俺を自分達の性の道具にしようした事からして、まずまともではない。

 冷静にその事を警察に報せたウチの両親の決断によって、連中はじき逮捕されたが、あの時、警察が現場に踏み込んでくるのがあと5分遅かったとしたら、俺は今頃ここにはいない。

 俺が、今、こうしてここにいられるのは、その行為が未遂に終わったからで、あの時、俺は、男達に体を弄られはしたものの、幸い最後の一線を越える事だけは免れた。

 だが、その時に受けた心の傷は、自分が思っていた以上に深く、結果、俺はこんなにも心のひねくれた人間に育ってしまった。

 以来、俺は人との交わりに、過剰な反応を示すようになった。

 異性とキスするどころか、他人と手を繋ぐ事からして、体が拒否反応を起こしてしまう。

 きっと、このままじゃ、一生誰とも結婚出来ないだろうが、別に俺はそれでもいいと思っている。

 友達も、恋人も、俺は特に必要としない。

 こうして、過去の事を思い出すのは、何年ぶりであろうか。

 俺は、今この部屋にいる田口と、過去の自分とを重ねあわせて見てしまっていた。

 実際、そんな事はなかったのだが、俺には男達に犯されている田口が、あの時の俺みたく、ひどく泣き叫んでいるように感じられたのだ。

(・・・やめて――)

 まるで、自分が被害者になったような気持ちで、俺はずっとそこに佇んでいた。

 そうして、一体、どれほどの時間が過ぎたのだろう。

「!?」

 はっと我に返った瞬間、男達は、ボロボロとなって床に横たわる田口を見捨てて、そのまま部屋を出て行こうとしていた。

「またね、潤ちゃん」
「また、よろしく頼むぜ」

 その時になって、俺は扉を蹴破るようにして、ようやくその部屋の中へ踏み込んだ。

「おいっ」
「!?」

 連中に聞こえるように、わざと大きな音を立ててドアを開けた俺に、みんなの注目が一斉に集まる。

 俺に気付いた田口は、自分の裸体を己の腕で咄嗟に庇ったものの、男達に全く怯んだ気配はない。

「なんだ、お前は?」
「お前達こそ、こんな所で一体何をしていやがるっ」

 男達の質問には答えず、逆にそう問い返した俺を見て、男達は不敵に笑った。

「何って、なあ?」
「そりゃ、見て分かるだろよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」

 床からのろのろと身を起こした田口が、俺からわざと目を背けた。

 こんな男であっても、一応今の自分の姿を恥ずかしく思っているのか、手を伸ばして床に散らばった衣類をかき集めると、それで自分の肌を覆う。

 その一連の動作を、俺は食い入るようにじっと見つめていた。

「なんだ、お前、おこぼれにあやかりに来たのかよ?」
「おこぼれ?」
「だから、お前も、潤ちゃんと一発やりたかったんだろ?」
「ふざけるなっ」

 俺に対して、そんな云いがかりをつけてきた男を怒鳴りつけて、田口の側に駆け寄る。

 近くで見た田口の顔は、今にもこの場に倒れてしまいそうなほど真っ青だった。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 俺から目を逸らして、決してこちらを見ようとしない田口に、俺は自分から声をかける。

「おい、大丈夫か?あんた」

 だが、その答えは、俺が思ってもみなかった言葉で

「・・・何が?」
「!?」

 その言葉に、俺は目を剥いて、田口を見た。

「何がって、そんなの決まっているじゃないかっ、あんた、今、この男達に――」
「・・・だから、何?」
「な・・・」

 明らかにこの場の被害者であった男が、まるで何事もなかったかのように振舞う。そんな田口の態度は、俺には信じ難いものであった。

「分かっただろう?」
「!?」

 田口の前に立っていた男が、俺に勝ち誇ったように云う。

「ここにいきなり入ってきたお前がどんな誤解をしたか知らないが、俺達は、別に何の罪も犯しちゃいない。これは、あくまでもお互い合意の上に成り立った行為だ」
「ふざけんなよっ、てめえっ」
「慎くんっ」

 堪えきれず、男達に飛びかかっていこうとした俺を、田口が自分の体を張って止めようとする。

 このチームのマネージャーである奴には、奴なりに思うところがあったらしく

「駄目、慎くんっ、頼むから暴力沙汰はやめてっ、ここで今チームに何かあったら、今度こそうちのチームは本当に駄目になっちゃうっ」
「!?」

 だからって、こいつがここで泣き寝入りしていいものか。

「・・・だからって」
「?」
「だからって、あんたはこれでいいのかよっ」

 ぶつける場所のない怒りに顔を歪ませ、そう叫んだ俺に、田口は健気に笑ってみせる。

「いいんだよ、俺は」
「!?」
「別にこんな事、へとも思っちゃいないから」

 こんな風にレイプされておきながら、それをへとも思っちゃいないなんて、そんな・・・

「そういう事で、じゃ、俺達は行くから」
「おいっ」
「慎くんっ」

 その事に対して、一言の謝罪も述べず、部屋を出て行く男達を追いかけようとした俺を、またもや田口が引き止めた。

 悲しい目で俺を見た田口は、そのままゆっくりと自分の首を左右に振る。

 目は口ほどにものを云うというが、奴のその目には、今の奴の本心がありありと映し出されていた。

 悔しくないはずなんてない。

 あんな事をされてしまって、本当はこいつだってその事をすごく気にしているはずだ。

 その証拠に、奴らが部屋から出て行った途端、田口は、たちまちその場に崩れ落ちて

(!?)

「おい、大丈夫か?」
「・・・大丈夫」
「立って歩けるか?とりあえず、こっちに座れ」

 手を貸して体を動かそうとしたら、奴の足の間から大量の精液が零れ落ちた。

 血の混じった白濁のその液は、思わず鼻をつまみたくなるような独特の匂いを放っている。

「・・・服を着る前に、シャワーを浴びた方がいいな」
「ありがと、慎くん。あとはもう一人で大丈夫だから、君も帰ってくれていいよ」

 とは云うものの、こんな状態の田口を一人こんな所に残して帰れるはずなどない。

「・・・手伝うよ、俺」
「慎くんっ」
「いいから、俺の気が変わらぬうちに、早く体を洗いに行こうぜ」

 それから、俺は、足腰の定まらない田口を抱えあげるようにして、シャワー室に運んだ。

「一人で大丈夫か?」
「ああ」
「俺は外で待っているから」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 俺の言葉に軽く頷いて、田口はシャワーの水栓をひねった。その姿を自分の目で見届けてから、俺はシャワー室を出る。

 田口の体に目立った外傷はなかったが、一応救急箱を用意しておこうと、更衣室でそれを探したがなかなか見つからない。

 ロッカーに顔を突っ込んで、一人ごそごそやっていたところに、シャワーを浴びた田口が帰ってきた。

「何やっているの?」
「!?」

 下半身だけは一応大判のバスタオルで覆っているものの、陵辱の痕跡が至るところに残された奴の体は、白熱灯の下で、やけに艶かしく見えた。

 湯上り後の奴の滑らかな肌は、匂い立つような色気を放っている。

 なるほど、今のこいつの姿を見ていると、こいつがいろんな男に目を付けられてしまうのも分かる気がするが、生憎、俺の体は、こいつの裸を見ても、何の反応も示していない。

「ねえ、何しているの?」

 石鹸の香りをプンプンと匂わせながら、奴は自分の体をますます俺に近付けてくる。

 そんな奴の行動に、俺は自分の顔を思いっきり顰めてみせた。

「何って、探しているんだよ、救急箱を」
「救急箱って、誰か怪我でもしたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 誰かって、ここには俺とこいつしか居ないだろうに、その質問に俺が黙っていたら、奴の方から

「ああ、もしかして、君、俺の体の事を心配してくれているの?」

 それから、田口は俺からわざと目を逸らせて、正面にある壁に目をやった。

「でも、これ、別に見える部分の怪我じゃないから、特に薬は必要ないんだ。この部分を使いすぎてしまったら、結構よくある事だし」

 確かに・・・そんな部分の怪我に効く薬が、ここの救急箱に入っているとも、俺も思っていないが

「ちなみに、救急箱はそこじゃなくこっちの棚の中。次に必要になる時の為に、この場所をちゃんと覚えておいてね」

 俺に向かって、奴はそれだけ云うと、自身が腰に巻いていたタオルをといて、それで濡れた体を拭いた。

 奴の尻が俺の目の前に露となって、それから目を背けるようにして、俺は慌ててその場を離れた。

「うわっ、このシャツ、ボタンがちぎられているじゃん」

 などと、独り言を云いながら、奴はひたすら着替えに励んでいる。その後姿に、俺はおそるおそる声をかけた。

「なあ」
「?」
「あんた、本当にこのままでいいのかよ?」
「このままって」
「このまま、この事を誰にも報せず、泣き寝入りしたままでいいのかよ?」
「泣き寝入りって・・・俺、それほど落ち込んじゃいないけど」
「そうやって、一人で突っ張るなよっ」
「!?」

 そう云いざま、俺は自分の拳で、横にあった壁を思いっきり殴った。

「・・・慎くん?」
「あんな事をされておきながら、大した事じゃないなんて・・・俺の前でそんな事云うなよっ」
「慎くん?急に一体どうしちゃったのさ?そんな事、君が気にする必要は――」
「分かるんだよ、俺にはっ」
「!?」
「男にレイプされちまったあんたの気持ちが、俺には痛いほど良く分かる。俺だって、昔・・・」

 そこまで云いかけて口を噤んだ俺を、田口は静かに見つめていた。

「・・・そっか・・・あんな事されて、気にしない訳ないよね」

 思わず涙ぐんでしまっていた俺に向かって、田口は慰めるようにそう云ったが、これじゃ、どっちが被害者か分かったものではない。加えて、田口は

「君に不快な事を思い出させてしまって、本当に悪かったね」

 そう云って、俺に謝ってきたが、俺はそんな事を云っている訳じゃなくて

「俺は、あんたの事を云っているんだよっ」
「!?」
「チームの事を一番に考えるのはいいが、その為に自分を犠牲にする必要はないっ」

 そこまでして尽くす価値が、このチームの一体どこにあるというのか――そう思っていた俺に、田口は静かに語りかけてくる。

「・・・俺さあ、コージに頼まれているんだよ」
「?」
「自分の留守中、このチームの事をよろしくって」
「あんた、牟田先輩の恋人なんだろ?」

 俺のその問いかけに、奴は曖昧に笑って、俺に真実を告げてきた。

「付き合ってはいるけど、残念ながら、そういうんじゃないんだ。そうなりたいって、俺はずっとそう思っているけど、肝心のコージの方に、その気は全くない――なんて、俺、君に一体何を話してしまっているんだか」

 何だかとんでもない話を聞かされてしまったが、牟田先輩だって、この事実を知れば、きっといい気はしないはずだ。その事を俺が直接指摘したら、奴は血相を変えて

「やめてよっ」
「!?」
「この事、コージにだけは、絶対に報せないでっ」
「でも――」
「もし、云ったら、俺は一生君を恨むからね」

 強い口調でそこまで云われてしまって、俺は仕方なく自分の口を噤んだが、今の田口の言動は、どうにも納得いかない。

 こんな大切な事を自分の付き合っている相手に知られたくないと云った田口の気持ちが、俺には全く分からなかった。

「この事は、俺と君だけの秘密だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「コージはおろか、社長にも絶対に云わないで」
「分かったよ・・・」

 田口の熱意に負けて、その時は渋々頷いておいたが、以後、俺は、こいつの事が、顔を見るのも嫌なほど嫌いになった。

 その後、牟田先輩は、田口ではない別の相手と真剣に付き合うようになり、田口はものの見事に先輩にふられてしまった。



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