【 きゅうり 】  「食物本草歳時記」(2006年7月)               

 

巻7 菜部 蓏菜類

品名:胡瓜

音:コカ

和名:きゅうり

 

一名を黄瓜(コウカ)という。張騫(チョウケン)が(漢の武帝の)使者として西域に行ったときに、この種を得たことから、胡瓜と名づけられた。北方の人々は石勒(セキロク)の諱(いみな)を避けて、黄瓜と呼ぶようになった。今ではいたるところにある。正月、二月に種子をまく。三月に苗が生え、蔓が伸びる。葉は冬瓜の葉に似ていて、毛が生えている。四、五月に黄色い花が咲く。胴回りが二、三寸、長さが一尺ほどの瓜が実をつける。皮は青色で、表面にブツブツの疣(いぼ)がついていて、老いてくると赤黄色になる。その種子は菜瓜(サイカ;しろうり)の種子と同じである。また別の一種は、五月に種子をまき、霜が降りる頃に瓜の実ができる。色は白くて短い。生でも加熱調理しても食べることができる。果物や野菜として食べるが、糟(かす)や醤(もろみ・ひしお)に漬けたものは、越瓜(エツカ;しろうり)には及ばない。

 

胡瓜(コカ): きゅうり

味性; 甘、寒、小毒あり。

主治; 清熱解渇(セイネツゲカツ;体にこもった余分な熱を収め、渇きを解く)、利水道(リスイドウ;体内の余分な水分を対外に排出する)。

寒熱を動かしてしまうので、多食してはならない。多くは瘧疾(ギャクシツ;マラリア)や、体内に瘀熱(オネツ;体内にこもった悪い熱)がこもり、(疒+主)熱(シュネツ;熱中症による発熱)を発し、虚熱が頭に上ってのぼせたときや、陰血を損なったとき、瘡疥(ソウカイ;かさぶたの発疹)や脚気を発したとき、虚腫(キョシュ;むくみ)による百病に効く。天行病(インフルエンザ)にかかったら、これを食べてはならない。小児は中を滑らせて(お腹を下す)疳の虫(かんのむし)を生じるので、決して食べてはならない。酢といっしょに食べてはならない。

 

(ヨウ): きゅうりの葉

味性; 苦、平、小毒あり。

主治; 小児の閃癖(センヘキ;頭髪が堅くこわばり、黄色く変色して、全身が痩せ衰える病)に効く。一歳に一葉を用いる(三歳児なら三枚の意)。生のまますり潰して、汁を服用する。これをもどして吐き出すと、よくなる。

 

 

 [きゅうり] について

きゅうりはウリ科の一年草で、原産地はインドからヒマラヤにかけての一帯で、三千年以上前から栽培されていた。中国には漢の武帝の時代に、張騫が西域から伝えたとされる。五胡十六国の時代、後趙を建国した石勒(セキロク)(274333)は匈奴の一族の羯(カツ)族の胡人の王であったから、「胡」の字を忌み字としたため「黄瓜」という呼称が広まったのだというのだが、単純に完熟すると黄色くなるから俗に「黄瓜」呼ばれるようになった、と理解した方がよさそうだ。日本には六世紀ごろに中国から伝えられたが、本格的に栽培されるようになったのは十七世紀以降のことになる。和名の「きゅうり」も、「黄(き)」+「瓜(うり)」が訛ったもので、完熟すると白色になる「越瓜(エツカ)」に「しろうり」の和名がつけられたのと同じであろう。

 

江戸時代のきゅうりは相当に苦味が強かったようで、貝原益軒は「これ瓜類の下品なり。味良からず、かつ小毒あり。」、また水戸光圀は「毒多くして能無し。植えるべからず。食べるべからず。」と酷評している。今のきゅうりは品種改良が進み、苦味の少ないものになっている。きゅうりの苦味成分はククルビタチンという配糖体で、青い皮の部分に含まれているので、青い皮の部分を取り除くと苦味はなくなる。本来きゅうりの表面には、ブルームという白いろう物質が出てきて表面を保護して水をはじくのだが、残留農薬と誤解されて売れ行きが落ちるという理由で、今日では品種改良されてブルームレスになったものが主流になっている。同じウリ科でも、冬瓜の表面はブルームで白っぽくなっているが、冬瓜は皮をむいて調理するので問題にはされなかったようだ。そのおかげで冬瓜は、その名のとおり冬になってもみずみずしさを保つことができる。

 

本文ではきゅうりは「酢といっしょに食べてはならない」、としている。酢と同食すると歯を損なうというのがその理由のようだが、酢を日常的に極端に多く摂取する人は、歯の表面が黄ばんだり脆くなったりするので、きゅうりの酢の物を美味しいからといって過食してはならない、という先人の戒めなのかもしれない。日本では「うざく」、中国では「涼拌黄瓜(リャンパンホァンクァ)」に代表されるように、きゅうりの酢の物は夏の定番料理だし、適量を摂取する分には問題がないようである。

 

きゅうりは代表的な夏野菜で、夏の火照った体を冷やす「寒性」の食材である。胃腸がじょうぶで、肝陽亢盛で高血圧の人にとっては、肝にこもった熱を収め、暑い季節に汗といっしょに失った水分とミネラルを補給しながら、ゆるやかに血圧を下げることができるので、理想的な夏野菜だといえる。ただし、生のきゅうりには弱い毒性があり、冷え症の人や夏バテで胃腸の弱っている人、妊婦は食べるのを控えた方がよい。
 きゅうりはカリウムを多く含み、利尿作用により体内の余分な塩分を排出して、血圧を正常に保つ作用がある。成分のサポニンには炎症を鎮める作用があり、腎炎を和らげ、咳止め、のぼせなどに効果があり、火傷、日焼けなどの外傷薬としても用いられる。香り成分のビラジンには血液の凝固を防ぐはたらきがあるので、血栓症の人には有効だが、血友病の人は食べてはならない。

 

もともときゅうりは夏の野菜で、われわれの子供の頃は寒い冬場に生のきゅうりを食べる食習慣はなかった。暑い夏場でも、きゅうりは生では食べずに、糠を使った古漬けや浅漬け、奈良漬に代表される粕漬け、またサンドウィッチやサラダには酢漬けのピクルスなどの加工品にして、毒性を殺してから食べるのが昔からの生活の知恵だった。今では年中新鮮なきゅうりが食卓に並ぶようになったが、はたして冬でも生できゅうりを食べられることが文化的な進んだ食生活なのだろうか?

 

「春は生、夏は盛、秋は收、冬は蔵」、およそこの世の生きとし生けるものは、すべからく天の運行にしたがって生きている。われわれの先祖は自然の運行に逆らうことなく、春には春の、夏には夏の食材を用い、四季それぞれの季節の恵みを享受してきた。自然の妙というのか、神の配剤というべきなのか、再生の春には肝のはたらきを活発にする「七草」などの辛味の山野草が、夏の高温の季節には、発汗により失った水分とミネラルを補給するきゅうりやマクワウリなどの瓜類が、秋には夏の強い日差しで火照った体を冷やし、活性酸素を抑制して紫外線で受けたダメージを回復するナスなどが、冬には復活の春に備えて良質のたんぱく質を補給するために寒鮒や鴨などが、季節の恵みとして用意されている。

 

季節にあった食材を食べ、季節はずれの食材を避けるように心がけるのが、四季養生の基本ルールだ。貝原益軒は『養生訓』の中で、「瓜は涼風の日、及び秋月清涼の日に食ふべからず。極暑の時に食ふべし。」といっている。冬場に夏の野菜を食べようとすること自体、自然の摂理に反し、自らの体を損なうことになることをよく自覚しなければならない。季節に逆らい冬に夏の野菜を作るのには、ビニールハウスの中で重油を燃やして温度を上げなければならないので、コストがかかって割高になるだけでなく、地球温暖化の原因にもなる。夏場に最盛期を迎える夏の野菜を食べることは、体にいいだけでなく、地球にもやさしく、またお財布にもやさしい究極のエコロジーなのだ。自然の流れに抗うことなく、自然と一体になることが、人間にとっても、自然界にとってもいちばんストレスのない生き方だ。

 

自然に対する畏敬の念が養生の第一歩であり、「ありがたい」という生命に対する感謝の気持ちが生まれ、「もったいない」という食べ物やわが身をいつくしむ気持ちにつながるのだ。『養生訓』は「是、畏るるは慎みにおもむく初めなり。畏るれば、つつしみ生ず。」と唱えている。きゅうりは品種改良により味や外観が変化してきたが、人間の体は『養生訓』の三百年前に比べ、品種改良されて進化したとは考えられない。先人の知恵には、必ず現代にも通用する貴重なヒントがあるはずだ。科学の力で自然を支配してコントロールしようという傲慢な態度を捨てて、人間も自然の造作物のひとつに過ぎないという謙虚な視点をもったときに、はじめて先人が残してくれた宝の山に入ることが許されるのだ。

 

冷え症の人がダイエットのためといって、冬場に毛糸の靴下を重ね履きしながら、生のきゅうりをバリバリとかじり、こんにゃくゼリーをむさぼり、スープ春雨を流し込むのは、毛皮のコートを着て氷水の中に跳びこむようなものである。まことにもって天を畏れぬ所業といわざるを得ない。「慎むべし、慎むべし!」

 

 

● 白きゅうりのピクルス

 

きゅうりにはビタミンCを破壊するアスコルビナーゼという酵素が含まれているので、生で他の野菜や果物といっしょに使うとビタミンCを破壊してしまう。アスコルビナーゼは酢に漬けるとその効力を失うので、ピクルスに漬けて保存食にするのはたいへん理にかなった加工法である。生野菜のサラダにきゅうりのピクルスを使ったり、きゅうりのピクルスで作ったタルタルソースを用いるのは、経験的な生活の知恵なのかもしれない。白きゅうりは小ぶりで苦味が少なく、果肉がしっかりして種が少なく、皮が柔かいので、ピクルスに漬けるのには最適である。

 

 

材 料;

白きゅうり 4本

360

120cc

60cc

砂糖

30g

はちみつ

大さじ1/2

食塩(板摺り用)

小さじ2

ローリエ

1

フェンネル

少々

 

 

作り方;

@ 食塩で板摺りして、ビンに入る長さにカットする。

A 3%ほどの食塩水に漬け、落としぶたをして半日ほど置く。

B Aを水洗いし、ザルに揚げて水気を切る。

C 酢、水、砂糖、はちみつをホーロー鍋に入れ、火にかける。

D 砂糖が溶けて透明になったら火を止め、粗熱をとる。

E ビンにBのきゅうりを隙間なく詰め、ローリエ、フェンネルを入れる。

F Dのピクルス液を流し入れ、フタをして冷蔵庫で保管する。

 

 

訳・文: 安井邦彦

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