16回目の誕生日
こっそり台所を覗くと、四段のお重を包んでいた三哉兄ちゃんと目が合った。思わず半歩後ずさったら、ため息とともに手招きされた。
特に悪いことしたわけでもないのに、こっそりしているときに見つかると、逃げたくなるよね。
心の中で言い訳をしながら、とことこと三哉兄ちゃんの隣りに行く。三兄が、お重を風呂敷できちんと包んで言った。
「先にこれ、細川さんとこに預けに行くけど」
「行く!」
皆まで言わせずとも、とあたしは意気込んで言った。手まで上げて言ったあたしに、三兄が笑った。
どきん、と胸が内側から叩かれた。
最近、三哉兄ちゃんはよくこんな風に笑う。
あたしを真っ直ぐ見て、眼を細めて頬を上げて――幸せそうに笑う。
その度に、あたしの胸は痛いぐらい鳴って、ものすごく自分に都合の良いように考えてしまう。例えば――三哉兄ちゃんはあたしのことをスキなんじゃないのか、とか。
判ってる。
三兄はあたしのことをスキだ。
自惚れじゃないの。だって、親のことを兄弟のことをスキでいるのって、変じゃないでしょう? そういうのを『普通』というには、最近の家庭は色々あるみたいだけど。
じゃあ、『お隣りのゆめ』と『彼女のゆめ』、その二つはどこが違うスキなんだろう。どうやって見分けたらいいんだろう。
あたしと三哉兄ちゃんは付き合ってる。俗に言う恋人同士だ。
でも、三兄は、あたしのこと、『恋人として』スキかな?
随分長いこと、幼馴染みだったり兄妹のようだったりしたから、判らない。判らないから、考えないようにしてる。
だって、いつか――いつか、三兄に結婚したいヒトができるかもしれない。それは、あたしじゃない他の誰か。『恋人』じゃないスキって、そういうことがあるってことだ。
覚悟ができてるとかできてないとかじゃなくて、もう本当にそれは仕方のないことなんだろうと、漠然と思う。
不安、なのかな、あたし。
でも、三兄があたしのことをキライになるわけがない。
だからかな。そういうこと、ちゃんと考えることができないの。ちゃんと三哉兄ちゃんにも訊けないの。
だって。
心臓が、どくん、と竦んだ。
隣りを歩く三哉兄ちゃんの手を、ぎゅうっと握る。三兄が気づいて、首を傾げた。あたしは、なんでもないと首を振る。
ちゃんと考えることができないのは、死んじゃいそうになるからだ。気持ちが――心が死んじゃいそうになるからだ。
だから、あたしが三兄をスキで繋がっていたいと考えて、三兄がそれを受け入れてくれる間は、考えない。
ふと気づくと、もう細川さんのお寺についていた。三哉兄ちゃんが、あたしからするりと手を抜いて、お寺の敷地の隅の方にちょこんとある住居の玄関まで行く。インターホンを押すと、ほどなく細川さんちの柾峯(まさみね)くんが出てきた。風呂敷包みのお重を三兄が渡すのを、ぼんやりと見る。
どうしてかな。毎日見てるのに、毎日キレイなヒトだな、って思う。
スキだな、って思う。
スキだって気持ちでいっぱいになって、すごく幸せになって――切なくなる。
「ゆめ?」
声をかけられて、あたしは我に返った。慌てて、手に持っていた荷物を柾峯くんに預けた。
「18時とか、それぐらいからッスかね」
「それぐらいになるだろうな。親父も一臣も仕事が終わってからだし」
「今年も平日ッスからね。そうそう、ゆめちゃん、お誕生日おめでとう」
話のついで、といった感じにお祝いを言われて、あたしはちょっとむくれながらも、ありがとう、と柾峯くんに返した。
今日は毎年恒例のお花見だ。最近雨が降ったり曇ったりが続いていたから、違う日になっちゃうかな、と思ったけれど、今日はなんとかお天気が保ちそうだ。良かった。
「上、見させてもらっていい?」
三兄が、裏手を指差す。お寺の奥には小高い丘へと続く道がある。ソメイヨシノがたくさん植わっていて、キレイであたしもスキな場所。
「勿論ッスよ。じゃあ、また後で」
柾峯くんに手を振って分かれて、三兄が迷いのない足取りで本堂の脇にある道へと歩いていく。後を追うと、つと振り向いて手を差し出された。なんとなく気恥ずかしくて手を差し出せないでいると、また、三兄が笑った。
鼓動がいつものひとつ飛ばしぐらいの速さで駆け始める。
手を取られて、引っ張られた。
いつも。
いつもいつも、昔っからずっと、スキはあたしからの体当たりだから、三哉兄ちゃんから好意を示すようなことをしてもらうのって、すごく恥ずかしくて戸惑ってしまう。手を繋ぐのだけじゃない。キスだってそう。
桜も見ずに、三哉兄ちゃんを見て思っていたら、
「ゆめ?」
「えっなに?!」
びっくりして、上ずった声が出た。
三兄の口唇を見つめてしまっていたから、いたずらが見つかったみたいにどっきりした。
慌てて視線をそらす。桜の向こうの空は、薄く白い雲が青空を覆っている。
「ま、柾峯くんって」
話題を探して、思わず柾峯くんの名前を出す。
「柾峯くんってさ、どうして『ッス』って言うんだろうね」
「大学が上下関係厳しいらしいぞ」
「仏教の大学って、体育会系?」
どうでもいい話。
そんなことばっかりが口をついて出る。訊きたいことは他にあるのに、訊きたくない――訊けない。
どうしてこんなにドキドキするんだろう。いつもドキドキしてるけど、いつもみたいじゃない。今日が、約束してくれた日だからかな。
「桜、今年も綺麗だな」
三兄が顔を上げるのにつられて、あたしも空を仰ぐ。今年はまだ八分咲きって感じだけど、それでもやっぱりキレイ。
ふと、三兄がおかしそうに笑った。首を傾げると、
「今年はまだできないな。花びら頭にいっぱいつけて『取ってー!』って」
ええと、そんなこともありましたね。
恥ずかしくなってそっぽを向くと、三兄の手があたしの髪に触れた。三兄の口唇が、あたしの髪に触れるのが、視界の隅に見えた。
「今年もやったら、きっとキスしたのに」
振りほどけなくて、去年とは違う気持ちでキスして欲しくなって、顔をうつむかせた。きっと耳まで真っ赤になっているに違いない。
三兄、最近、そうやってあたしをいじめるよね。恨めしくなって言うと、
「いじめたくなる顔してるんだ」
そうして、また笑った。またその笑顔に、あたしの心臓が破裂しそうに鳴る。
思い上がってしまうよ。
三兄があたしの口唇にも触れるだけのキスをくれて、そうしてあたしの手をひく。どこまでだって、いつまでだって、一緒にいたい。
そんな高望みをしてしまうよ。
てっぺんまで着いて、二人でベンチに座る。ここから見た桜も、三兄も、忘れられない。だって、去年の話だもの。忘れないし、忘れられない。
「一年だな」
同じことを考えていたみたいで、三兄もそう言った。こっちを向いて、笑った。
「16歳、お誕生日おめでとう」
「えと、ありがとうございます」
改めて言われて、あたしも思わず畏まってしまう。
やだな。今日はなんだか流されてるばっかり。
いつもあたしから体当たり。だから、流されるのは苦手。だって、動かない分いろんなこと考えちゃって、そうして勘違いもしてしまう。
三哉兄ちゃんは、あたしのこと、スキだよね?
スキ。
それは知ってる。
じゃあ、あたしがどんな風に三哉兄ちゃんのことスキか、知ってる? あたしは、三哉兄ちゃんがあたしのことをどんな風にスキか、判らないよ。
さて、と言って三兄が立ち上がった。あたしが顔を上げると、手を差し出してくる。
「帰るか」
やっぱりちょっとためらって、それからあたしはその手を取った。
*
帰ったらお母さんとお父さんが家に着いていた。予定より早いね、と言うと、お母さんに体当たりされる。早いと悪いのかー、ってお母さんテンション高い。
「はぴばーすでー! さー呑むよー!」
と、あたしの誕生日が呑むついでのように祝われる。まあ、お母さんだし、いつものことか。まだ時間にはちょっと早いのに、もう待てないというお母さんに渋々付き合って、お父さんと三人で引きずられるようにしてお寺までもう一度行く。
柾峯くんを家から引きずり出したお母さんは、敷物を敷かせてクッションにお弁当に飲み物と用意していく。細川さんは外にお仕事で出ているから、もうちょっと後にならないと帰ってこないんだって。それを聞いたお母さんは、あげく、早坂のおじさんや一兄に次々に電話して、早く来いー! と怒鳴った。
「お母さん、もう呑んでる……?」
こっそりお父さんに聞くと、苦笑して、
「今日はまだ一滴も入れてない。あれは、浮かれてるんだろう」
浮かれてる?
「ゆめが16歳になったから」
お父さんが、優しく眼を細めた。
女の子にとって16歳は特別なんだろう? と言われて、あたしは何故か顔を赤くしてしまう。だって、お父さんの言う意味以外でも、あたしにとってはあたしの16歳は特別なんだもの。
「飛行機の中でもうるさかった。顔と家事だけが取り柄の三哉にとられる、とかなんとか」
悔しそうに嬉しそうにお母さんが言った、というその話に、あたしは困って、赤くした顔をうつむかせた。
多分、お母さんは判っているのよね。あたしが三哉兄ちゃんと付き合いだしたのが、言わなくても判っていたように。
親にそういう風に思われてるのって、なんだかすごく恥ずかしい。
「コラー! なに話してんのよ!」
話題の主、お母さんがあたしとお父さんの間に割って入ってくる。向こうに、既にへとへとになった柾峯くんを見つけて、申し訳なくなる。乾杯できるまで呑めない、とお母さんは騒いでるけど、呑まなくても酔っ払ってるみたいなんだから、もう呑まないで欲しい……。
騒いでいる間に、細川さんが帰ってきた。ほどなく一兄たち家族が来て、二葉お兄ちゃんも来て、18時ぎりぎりに早坂のおじさんも到着した。
「そんなわけで、乾杯ー!」
早坂のおじさんが座る間もなく、お母さんが勝手に乾杯の音頭をとった。毎年のことだし、これから何度も乾杯をするハメになるので、みんな割りとおざなりに『かんぱーい』と続けた。
あれ、とあたしは思わず立ち上がってみんなの顔を見回した。
どうした、と隣りのお父さんに聞かれて、首を横に振って座りなおす。
宴会の中心では、三兄が作った、キレイでおいしそうなお重が広げられてる。クーラーボックスから次々にビールが出されて、飲んで注がれて注ぎ返して、そうして二度目の乾杯のコールがかかった。
あたしも一応、オレンジジュースの紙コップを上に掲げた。
いない。
どうしてだろう。
だって、三哉兄ちゃんは、時間は守るヒトだ。なにかあったのだろうか。遅れるにしても連絡ぐらいしてくるのに。
そわそわして、落ち着かない。
携帯電話を開く。でも、着信もメールもない。
そっとその場を離れて電話をかけてみた。圏外だ、と電子音声に言われてしまった。
具合でも悪いのかな。でも、つい二時間前に会ったときは元気そうだった。
じゃあ、急にはずせない用事ができたとか?
でもそれなら、一言メールくれたっていいじゃない。三兄は、そういうことを面倒臭がらないヒトなのに。
「あの、あたし、家見てくる」
居てもたってもいられなくて、お父さんの返事も待たずに、あたしは駆け出した。
*
電気は全部消えてる。
早坂のおうちまで帰ってきて、あたしは上がった呼吸を整えようと深く息を吸った。
来るまでに何度も三兄の携帯電話にかけたけど、ずっと圏外だって言われてしまう。もし、急に用事ができたんだとしても他に行き先も判らなくて、ここに帰ってきてしまった。合鍵で開けて中に入った。
シン、としている。
当たり前だ。だってみんな、細川さんのお寺にいるんだもの。そうじゃなくとも、いつも早坂のおうちは、おじさんと三哉兄ちゃんしかいない。その二人がいないのだから、人の気配がなくても当たり前だ。誰もいないのだ。
誰も、いない。
三兄も?
あたしは泣きそうに苦しくなって、靴を脱ぎ散らかして中へ入った。
台所、リビング、トイレもいない。
汗が出る。走ったせいなのか、不安のせいなのか判らない。
どうしていないの。どこへ行っちゃったの?
「三兄……」
あたしは心細くなって、思わずつぶやいた。
あたしがいなくなったことはあっても、三哉兄ちゃんがいなくなったことはなかった。
いなくなる?
あたしはその考えにびっくりして、三兄の部屋の前まで来て、立ちすくんでしまった。
いなくなる――三兄が他の人をスキになるって、そういうことだ。あたし以外のヒトをスキになるって、そういうことだ。
毎日三兄に会えない。会いにいけない。だって、三兄にはそのときにはもう、決まったヒトがいるんだもの。
他の誰を差し置いても、一番大切にしたい人が――三兄にそんなときが来る?
心臓が、まるで誰かの手に捕まれでもしたように締め付けられる。
どうして今までそんな風には考えなかったんだろう。
もし、このドアを開けて三兄がいなかったら、もう二度と会えないんじゃないか。
だって、今日は約束した日だよ。あたしの16歳の誕生日なんだよ。覚えてるよね?
なのに、そんな日にいないの? それって、どういうことなの?
そのことの指し示す意味に気づいて、あたしはぞっとした。
イヤだ。そんなのイヤだ。
ねえ、三兄が一番スキなのは、誰? あたしのこと、どんな風にスキ? そのスキって、何よりも誰よりもスキ?
仕方なくなんかない。
覚悟なんか絶対できない。
三哉兄ちゃんが、これから他の誰かにキスをしたり抱きしめたりするなんて、考えたくない。頭の中が焼き切れそう!
どうしよう。あたしばっかりこんなにスキで、どうしよう。そんなスキに、同じぐらいのスキを三兄に返して欲しいと願っているなんて、本当にどうしたらいいんだろう。どうしてこんなに図々しいんだろう。
怖くて、握ったドアノブを回せない。
ふと、中で物音がした。
「……ゆめ?」
囁くように三兄の声がした。
三哉兄ちゃんの声だ。
いた。
ほっとして気が抜けて、へたり込んでしまう。涙が勝手に出てきた。ドアが開いて、三兄の姿を見止めた途端、さらに涙は量を増していく。堪え切れなくて三兄に抱きついた。
「どうした? 花見に行ったんじゃないのか?」
「だって、三兄が来ないから」
声がかすれる。眼が熱いよ。
心配して、不安になって。
「汗だくだぞ、ゆめ。ちょっと待ってろ。タオル持ってく――」
立ち上がろうとした三哉兄ちゃんの腕を取って、あたしは離さない。
ずっと考えないようにしてたこと、さっき考えてしまったことを、もう心の中だけにとどめて置けない。
「三哉兄ちゃんは、いつか、いなくなっちゃう?」
灯りのついていない暗い廊下じゃ、三兄の顔はちゃんと見えない。それでも、その眼を探して必死に見る。
「あたし以外のヒトをスキになって、いなくなっちゃう?」
す、と息を呑む音がした。
途端、訊いたことをやっぱり後悔して、三兄に抱きついてその胸に顔を押し付けてそむける。
「ゆめ」
「イヤ!」
肩を押し戻されるのに、必死に抵抗する。
「ゆめ、聞けって」
「やだ、聞かない! 聞きたくない」
他のヒトなんかイヤだ。あたしのことだけ見て。あたしが、何よりも誰よりも三哉兄ちゃんのことがスキなように、三哉兄ちゃんもそう思って。
ぐるぐるとイヤな想像ばかりが頭の中をめぐる。そうしてそんなのはイヤだと、あたしの心が叫ぶ。痛くて叫ぶのはもうイヤなのに、それでも叫んでしまう。
気持ちが死んじゃうどころじゃない。あたし――本当に死んでしまうんじゃないか。
頭の上でため息をつかれ、肩を掴んでいた三兄の手から力が抜ける。ふと、あたしも息を吐いた。その瞬間、体が床から浮いた。抱き上げられたのだと気づいたのは、ベッドに放り投げられてからだ。慌てて体を起こそうとしたときには、三兄に圧し掛かられて、両腕をシーツに押さえ込まれてた。
「そんなこと、ずっと考えてた?」
暗闇の中、三兄の顔が見えない。
でも、声だけで判る。今までにないぐらい、怒っている。すごく低い声。
あたしが判らずやだから?
涙がぼたぼたとこめかみを通って落ちていく。
三兄が、苦しそうに息を吐いた。
「ゆめにキスして」
びくっ、とあたしの体が震えた。それでも、あたしの手首を掴む三兄の力は緩まない。
「毎日キスして、今日って約束して、でも、ずっとオレが本気じゃないって思ってたんだな」
違う、とは言えなかった。
涙で喉が詰まっていたのと、怖かったのと――あたしが三兄のスキを計っていたのは、そういうことなんだと理解したのと。
あたしと付き合ってるのは、お遊びなの?
息が近づいて、額が触れた。すぐ傍で、三哉兄ちゃんの眼と出会った。暗闇なのに、暗闇だから、なおさらその眼があたしだけを見ているのが判った。
あたしだけを。
「好きだ」
なんと言われたのか考える間もなく口唇がふさがれて、なにも判らなくなる。
もう慣れた三兄の味と、あたしの涙と汗の味。
息が詰まるぐらい深くキスされて、ようやく解放されたときには、息が上がってしまっていた。
「本当は、今日、もっとちゃんと言おうと思ってたんだけど」
両手で優しく頬を包まれる。
さっきとは違う涙が、眼から溢れてる。
ずっと言わなくてごめん、と三兄が言った。
「言えなかったんだよな。オレがガキだから」
嫌いじゃない、っていうのが、三哉兄ちゃんの精一杯の好意の示し方。
それは判ってた。判ってたから、他の『嫌いじゃない』と、あたしは違うとはどうしても思えなかった。
思えなかったんだ。
「ゆめが、好きだ。オレの中で一番」
もう一度、ゆっくり三兄が言った。
ようやく、あたしの中にその言葉が下りてくる。
すとん、と不安だった心の隙間に収まって、そうしたらそこから違うものが溢れてきた。
「あたしも」
声がかすれたけど、構わず言った。
「あたしも、ずっとスキ。三兄がスキ」
疑ってごめんなさい、とあたしは泣いた。疑わせてごめん、と三兄が言った。
初めて。
三兄が『好き』っていうのは、初めてだった。
あたしに対してだけじゃなくて、他の何に対してでも、三哉兄ちゃんは、そんな風に好意を正直に示せないヒトだから。
なのに。
あたしにだけ? あたしにだけ。
「好きだよ、ゆめ」
うん、と頷いて、三哉兄ちゃんの首に抱きついた。
もう離れるのが怖いなんて思わない。
だって、三兄はあたしの傍からいなくならない。絶対に、いなくならないから。それはあたしもそうで――
三哉兄ちゃんが、あたしのことをスキ。
スキ、なんだって。
三兄の中で一番ってことは、他の何よりも誰よりもスキってことだよね?
すごい。高望みだ、勘違いだ、ワガママだ、ってずっと思ってたのに、そうじゃなかったなんて、すごい。
「大スキ」
気持ちが溢れてどうしようもなくて、三兄にいっぱい抱きついて、いっぱいキスをした。いっぱいスキだって言って、いっぱい好きだって言われて、ようやくあたしは三哉兄ちゃんの『恋人』になれたんだって実感した。
そうして、互いに約束を守って、その日、16回目のあたしの誕生日に、あたしたちの心と体は一番仲良くなった。
end