制服のハナシ
「短すぎる」
開口一番、オレはそう言った。
そう言われたゆめは超ご機嫌オーラを放っていたのを、一瞬で超不機嫌オーラに切り替えやがった。さすが一瞬で機嫌の切り替わるお姫さんだ。
すねてアヒルのように突き出した口唇から、ゆめは文句を叫ぶ。
「最近はこれぐらいが普通なの!」
「その普通にお前が合わせる必要はない」
むくれて言ったゆめの言葉に、即座に切り返す。
ダメと言ったものはダメ。聞き分けなさい。
そんなにスカート短くして、誰にパンツを見せて歩くつもりだお前は。
玄関先で、オレとゆめは、お互い譲り合う気のまったくないにらみ合いを開始した。
来月入学する高校の制服ができてきたとかで、ゆめは喜び勇んで着て、オレに見せに来た。いつもは平気な顔してノックすらなしでオレの部屋まであがってくるくせに、今日に限って玄関先で大声出してゆめが呼ぶもんだから、渋々出て来てやってみれば、この姿。
こげ茶色のブレザーに、チェックのプリーツスカート、膝までの紺のハイソックス、ぺたんこの茶色のローファー。
くるりと回って全身を見せるゆめを見ての、オレのさっきの言葉は、当然のセリフだろう。そのスカート丈だけは納得いかん。
流行というものの移り変わりとは早いもので、オレの高校時代には、どこの学校の女子もルーズソックスばかりはいていたというのに、今は紺のハイソックスが主流らしい。
真新しい高校の制服を着たゆめは、確かにかわいい。かわいいが、
「生徒手帳にも、膝上10センチまで、って書いてあるもん! 10センチまでは許されるのよ?!」
生徒手帳を突き出されて、その項を確認する。確かに、『膝上10センチ以内のこと』。
風が吹けば盗撮屋がもうかるような校則を作ったやつを、今すぐくびり殺してやりたい。
「とにかくダメ。オレの言うことが聞けないっていうんなら、今度からお前の弁当は全部日の丸にしてやる」
ええー! と、ゆめが不満の声をあげる。
白飯の真ん中に真っ赤な梅干。これぞ由緒正しき日本の弁当じゃないか。オレはそんなおかずのない弁当、ごめんだけど。
それが嫌なら。
オレは視線をゆめの腰あたりに向ける。
「どうせそのスカート、腰のとこで折ってるんだろ。戻せ」
う、とゆめが口ごもって、腰をおさえて後退する。
やっぱりか。
ゆめがオレを睨んだまま、じりじりと後退する。今逃げたって無駄だぞ。学校が始まってもまだそのスカート丈だったら、またオレが怒るのは目に見えているだろう?
「三兄、教育指導の先生みたい」
なんとでも言ってくれ。とにかく、そのスカート丈だけは、何があってもダメ。
「だって」
ゆめがむくれた口から、まだ何か抗議を言う。
だって、なんだっていうんだ。
「だって、これぐらいの方がカワイイもん」
ゆめのその言葉に、オレはカチン、と来た。
後ずさりしようとしたゆめの両手を無理矢理捕まえて、ひっぱる。ゆめはたたらを踏んで、オレにひっぱられるまま、廊下へと上がらされた。
「やっ、ちょっ、三哉兄ちゃん、靴!」
うるさい。
靴を履いたままで慌てたゆめを抱えて、二階の自分の部屋へと持っていく。
米袋持つみたいに、脇に抱え込んでるから『持っていく』で合ってる。
じたばたとゆめの腕やら足やらが暴れるが、そんなの知ったことか。ほら、もうオレの部屋についた。
「わっ!」
ベッドに放り投げると、ゆめが慌てたように体を起こす。その体を押し倒そうとすると、再びじたばたと暴れられた。ゆめが、オレの体をところかまわず蹴りつける。こりゃ明日、どっか青痰になってるだろうな。
それでも、力にモノを言わせて無理矢理ベッドに押しつけて、ゆめのスカートに手をのばした。太ももにオレの手が触れた途端、動物病院に連れて行かれた猫のように暴れていたのがウソのように、ゆめが静かになった。いやこれは硬直したのか。
それならそれで都合がいい。
ゆめの上に馬乗りになった状態で、オレは目的のものがあるだろう場所へ躊躇なく手を伸ばす。
一瞬、どこか冷静なオレの頭の中が、まるで犯罪、と言ってきたが無視。
今さらこれぐらいで犯罪とか言われる覚えはない。こちとらゆめとは15年の付き合いだぞ。お漏らしオネショを知っている上に、ついこの間まで一緒に風呂に入っていたような相手に気後れするハズがない。
だが、ゆめは頬を真っ赤にさせて、目に涙をいっぱいにためて、
「やっ、やだ、三哉兄ちゃんっ……」
がっ!
なんだその甘い声!
そんな声の出し方、一体どこで教わってきたんだお前は。
一瞬にして下半身に集まってしまったモノをなんとか気にしないようにしながら、ゆめの腰のあたりを触る。
あった。
しゅるり、と抜いて、オレはゆめの上からどいてやった。
起き上がる余裕もないのかベッドに寝転がったまま、ゆめが安堵したようなびっくりしたような目で、ベッドの傍に立つオレを見上げている。
なんだよ。
「これは没収」
手に握ったものを、これ見よがしにゆめに見せ付ける。
オレの手には、ゆめのスカートを止めていた布ベルトが握られていた。
あっ、とゆめが声をあげてがばっと勢いよく起き上がり、自分の腰のあたりを探るが、もう遅い。
「ひどい! 鬼!」
なんとでも言うがいい。
言っとくけど、またベルト買ってきてスカート丈短くしたら、何度でも没収するからな。
うー、とゆめが唸る。
唸ったり睨んだりするだけならタダだ。いくらでもするがいいさ。
オレに対するゆめの罵詈雑言を受け流しながら、ベルトをくるくると丸めていると、言うに事欠いて言いやがった。
「セクハラ!」
ピタリ、とオレは動きを止めざるをえない。その言葉には反論できない。ここぞとばかりに触りまくったからなあ。
視線をゆめに向けると、ゆめがビクッと体を縮こませた。怒られると思うんなら、そもそも言うなよ。
大げさにため息をついてみせて、ゆめへと近づく。ゆめがベッドの上で、尻で後ずさりする。すぐに追い詰められて、ゆめの背中が壁へとついた。両手をゆめの顔の横の壁について、顔を近づける。まだ怖がってんのか?
本当はする気なんかなかったけど、ビクついてぎゅっと目をつむったゆめの顔につられて、その口唇にキスをする。
強ばった口唇に舌を這わせる。吐息するように、 ゆめの口唇から緊張が抜けていく。
肩を引き寄せると、頼るようにゆめが体を預けてきた。温かくて柔らかなゆめの体の感触に、オレの意識がのぼせそうになる。
「ん……」
やべ。
止まらなくなりそうな欲望に、ムリヤリ理性でブレーキをかける。
顔を離すと、うっすら涙の浮かんだとろんとした目のゆめと出会った。だから、お前はどこでそんな技を覚えてくるんだっての。
舌打ちをして、その目を睨みつける。
「そんなにミニが穿きたきゃ、オレといるときだけにしろ」
ゆめは意味を取りあぐねたように、目をきょとんとさせた。だが、すぐにどういうことを言われたのか理解したようで、真っ赤な顔で、口を魚みたいにパクパクさせて、結局何も言えずにうつむいた。理解してくれたようで何より。
オレ以外に、色気を振りまかなくてもいいんだよ。
end